「団地の友達 夏のおもいで編」
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団地の友達 夏のおもいで編
夏の陽射しが容赦なく照りつける団地の一角で、ケータは新しい生活を始めていた。引っ越してきたばかりの彼は、十八歳を過ぎたばかりの青年で、家族とともにこの古びた団地に移り住んだ。新しい環境に慣れるまで時間がかかると思っていたが、意外な出会いが待っていた。
ある蒸し暑い午後、ケータは階段を下りていると、下の階の隅で一人の青年が座り込んでいるのを見つけた。その青年、ユーキは、服がすっかり擦り切れ、汚れが目立つ姿だった。髪はぼさぼさと乱れ、顔には疲れの色が浮かんでいる。ケータは声をかけずにはいられなかった。
「大丈夫? なんか具合悪そうだよ」
ユーキはびっくりしたように顔を上げ、すぐに目を伏せた。だが、ケータの穏やかな声に少し安心したのか、小さく頷いた。二人はそこで少し話した。ユーキの家は複雑な事情を抱えていて、いつも食べ物に困り、夕方になると家から追い出されるような毎日を送っていた。親の仕事が不安定で、満足に食事が取れない日々が続いているらしい。ケータはそんなユーキの境遇を聞き、心が痛んだ。
それからというもの、ケータはユーキの支えになろうと決めた。自分の家からおにぎりやパンを持っていき、一緒に食べるようになった。団地のベンチや公園の隅で、二人で時間を過ごすのが日課になった。ユーキは最初、遠慮がちだったが、ケータの自然な優しさに少しずつ心を開いていった。笑顔を見せるようになり、話す内容も増えていった。夏の風物詩のように、蝉の声が響く中、二人はアイスクリームを分け合ったり、川辺で石を投げて遊んだりした。
ケータはユーキのことを、ただの友達として大切に思っていた。ユーキもまた、ケータの存在が救いだった。家に帰りたくない夕暮れ時、ケータが待っていると知ると、足取りが軽くなった。二人で自転車を借りて団地の周りを走ったり、夜空を見上げて星を数えたり。夏の夜は長く、虫の音が心地よいBGMのように響いた。
そんなある日、いつものように公園で遊んでいた時、突然の雨が降ってきた。土砂降りで、近くの軒下に駆け込んだ二人は、びしょ濡れになった。ケータは笑いながら自分の上着をユーキにかけようとしたが、ユーキの服が濡れて体に張り付いているのに気づいた。その瞬間、ケータは驚いた。ユーキの体つきが、思っていたよりも柔らかく、曲線的だったのだ。
「ユーキ……もしかして、女の子?」
ユーキは顔を赤らめ、目を逸らした。実はユーキは女の子で、十八歳の青年のような短い髪とボロボロの服で暮らしていた。家のことや周囲の目から守るために、男の子のように振る舞っていたのだ。事情を聞いて、ケータはさらにユーキを大切に思うようになった。秘密を知ったからといって、関係が変わるわけではない。ただ、友達として、より深く寄り添えるようになった。
雨が止むまで、二人は軒下で話し込んだ。ユーキは自分の過去を少しずつ明かした。家族のトラブルで、満足に服を買えず、いつも古いものを着ていたこと。夕方に家を出されるのは、親の喧嘩を避けるためだったこと。ケータは黙って聞き、時折手を握って励ました。ユーキの指は細く、温かかった。
それからの夏は、より濃密なものになった。二人で団地の屋上に行き、夕陽を眺めたり、花火大会にこっそり出かけたり。ユーキは少しずつ女の子らしい一面を見せるようになった。髪を整えたり、ケータからもらったリボンを付けたり。ケータはそんなユーキを、友達として守りたいと思った。まだ恋という感情は芽生えていない。ただ、純粋な絆が、二人の心を繋いでいた。
夏の終わり近く、二人で海辺の近くまで遠出をした。電車に揺られ、砂浜を歩く。波が足元を濡らす感触が新鮮だった。ユーキは笑顔で貝殻を拾い、ケータにプレゼントした。夕方、帰りの電車でユーキが肩に寄りかかってきた時、ケータは自然と手を繋いだ。友達として、当然のことのように。
この夏の思い出は、二人の関係を深めた。ユーキの辛い毎日が、少しずつ明るくなった。ケータの優しさが、ユーキの心を温かく包んだ。まだ大人の階段を登り始めたばかりの二人。恋愛感情はこれからかもしれないが、友達としての純粋な愛情が、物語の基盤だった。
このお話は、後編(完結編)と前作・中編の間の時期を描いたもの。夏のさまざまな出来事が、二人の絆を強固にした。ユーキとケータの関係をより深く知りたい方へ、特別なエピソードをお届けする。純愛のハートフルストーリーとして、心に残る夏の記憶を、どうぞお楽しみください。

