「僕の部屋が幼馴染ギャルのヤリ部屋になった話 温泉旅館編(仮)」
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主人公の佐藤太郎は、典型的な非モテオタクだ。大学を卒業し、ようやく一人暮らしを始めたはずの新生活は、期待に胸を膨らませていた。狭いワンルームにアニメのフィギュアを並べ、深夜までゲームに没頭し、時には自作の小説を書き溜める──そんな穏やかで孤独な日々を夢見て、引っ越しの荷解きを終えたばかりだった。身長は平均以下、眼鏡の奥の目はいつも眠そうで、会話のキャッチボールは苦手。女子との接点など、学生時代に数えるほどしかなかった。そんな太郎が、唯一の心の支えにしていたのは、幼馴染の美咲たちだった。いや、正確には「支え」にされていた、と言うべきか。
美咲は高校時代から変わらぬギャルだ。金髪のロングヘアを揺らし、派手なメイクにミニスカートを合わせ、街を闊歩するだけで男たちの視線を集める。明るくお転婆で、笑顔の裏に少しの毒舌を忍ばせるタイプ。彼女の周りにはいつも同じくギャル仲間のあかりとゆいがいる。あかりは黒髪のクールビューティー系で、意外と読書好き。ゆいはピンクのツインテールがトレードマークの元気印で、甘いものが大好き。幼い頃から近所に住む三人は、太郎の家を遊び場のように扱い、からかい半分で彼を巻き込んでいた。太郎にとっては、ただの「うるさい姉御肌の幼馴染」だったはず──あの日までは。
あの日とは、大学最後の夏祭りの夜のこと。酔った勢いで美咲に告白めいた言葉を漏らした太郎は、予想外の熱いキスを返され、そのまま彼女の部屋に連れ込まれた。以来、事態は急変した。毎日のように、美咲たちが太郎の部屋に押しかけてくるようになったのだ。最初は「ただの遊び心」だと信じていた太郎だったが、甘い香水の匂いが部屋に染みつき、ベッドのシーツが乱れに乱れる日々が続く。美咲の柔らかな肌が絡みつき、あかりの冷静な視線が熱を帯び、ゆいの無邪気な笑みが誘惑に変わる。セックス漬けの生活──それは太郎の身体を骨抜きにし、心まで溶かしていく。朝起きて仕事に行く前に一回、帰宅したら夕食代わりに二回、深夜のアニメ鑑賞中に三回……。そんなルーチンに慣らされ、太郎の新生活はもはや「彼らなしでは成り立たない」ものになっていた。
「このままじゃ、俺の人生終わりだ……」太郎は鏡の前で呟いた。頰はこけ、目は虚ろ。せっかく手に入れた一人きりの自由が、甘美なる牢獄に変わってしまった。アニメの新作をゆっくり観る時間も、好きなラーメンを一人で啜る余裕も、すべて美咲たちの笑い声と吐息に奪われていた。彼女たちは決して強引ではない。むしろ、太郎の好みを熟知した上で、優しく、時には甘く、包み込んでくるのだ。「太郎くん、今日も可愛いね」「もっとリラックスしてよ、ほら……」そんな言葉に抗えない自分を、太郎は呪った。オタクのプライドが、こんなギャルたちの玩具になるなんて。いや、それ以上に──この関係が本物の恋なのか、ただの遊びなのか、わからなくなっていた。
決意は突然訪れた。会社の同僚から勧められた、静かな山奥の温泉旅館のパンフレット。そこには、貸切風呂あり、客室露天付き、Wi-Fi完備と、オタク心をくすぐる設備が揃っていた。一人きりで湯に浸かり、スマホで最新のマンガを読みふけり、夜は星空を眺めながらビールを飲む。完璧な逃避行だ。美咲たちには「急な出張」と嘘をつき、週末のチケットを即座に予約。荷物は最小限──着替えとノートPCだけ。心の中で何度もリハーサルした。「これで、俺は自由だ。少し距離を置いて、頭を冷やそう」。
新幹線に揺られ、バスを乗り継ぎ、ようやく辿り着いた旅館「霧の湯荘」。木造の古風な建物が、霧に包まれた山間に佇む。フロントでチェックインを済ませ、部屋に入った瞬間、太郎は深い溜息をついた。畳の香り、窓辺の竹林、プライベートな露天風呂。完璧だ。夕暮れの湯に浸かりながら、ようやく肩の力が抜ける。「これが、本当の新生活の始まり……」と、目を閉じた。
──が、開けた瞬間、悪夢が始まった。
廊下から聞こえる、聞き覚えのあるハイテンションな笑い声。「わー、めっちゃいい匂い! ここ、絶対正解じゃん!」美咲の声だ。続いてあかりの冷静なツッコミ。「美咲、声でかいよ。太郎の部屋、近くない?」そしてゆいの弾けるような歓声。「温泉! 貸切! 早く入ろー!」なぜ? どうして? 太郎の脳裏に、疑問符が乱舞する。慌てて浴衣を整え、部屋の障子を開けると、そこに三人が立っていた。美咲はビキニの上に浴衣を羽織り、妖艶に微笑む。あかりは本を片手にクールに、ゆいはお菓子を頰張りながら無邪気に手を振る。「太郎くーん! 偶然だねー! 私たちもここに泊まるんだよ。ふふ、運命?」
偶然? そんなわけない。美咲の目が、いたずらっぽく細まるのを見て、太郎は悟った。これは罠だ。きっと、部屋の匂いを嗅ぎつける猟犬のような嗅覚で、太郎の逃避を察知し、追ってきたに違いない。夕食の宴会席では、彼女たちの膝が太郎の脚に絡みつき、湯上がりには露天風呂で「四人貸切」に強制参加。湯煙の中で、美咲の濡れた髪が肩に落ち、あかりの指先が背中を滑り、ゆいの笑顔が甘く迫る。骨抜きの日々が、温泉の湯気と共に再燃する。
太郎の逃避行は、こうして甘美なる包囲網に落ちた。果たして、彼はこのギャルたちの誘惑から逃れられるのか? それとも、湯の熱さに負け、さらなる深みに沈むのか──。新生活の夢は、霧のように儚く溶けゆくのだった。