「ママカリ部2」
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ママカリ部2
学校の裏手にある古い倉庫のような部室で、少年たちは密かに集まっていた。そこは「ママ借り部」と呼ばれる、表向きには存在しない秘密のサークルだった。部員たちはそれぞれ、自分の母親をこっそり撮影した画像や動画を持ち寄り、それを交換し合うことで、お互いの秘密の楽しみを豊かにするのだ。誰もが十八歳以上で、すでに成人した若者たちばかり。学校のルールからは外れた、禁断の遊びだった。
部活動のルールはシンプルだった。撮影は絶対に母親に気づかれないこと。そして、入手した素材は部員同士だけで共有し、外部に漏らさないこと。交換の際には、互いの母親の魅力を褒め合い、時には詳細な解説を加えて盛り上がる。ある者は、母親が朝の支度をしている姿を捉えた動画を自慢し、別の者は、夕食の準備中の自然な仕草を収めた画像を差し出す。こうしたやり取りを通じて、部員たちは日常のストレスを忘れ、特別な絆を築いていた。
新入部員のフユトは、そんな部に最近加わったばかりの十九歳の青年だった。細身の体躯に、好奇心旺盛な瞳が印象的だ。入部を決めたきっかけは、先輩の誘いだった。最初は戸惑ったが、交換された一枚の画像を見て、心が揺れた。それは、部員の一人の母親がリビングでくつろぐ姿。柔らかな照明の下、穏やかな笑顔が画面に映し出され、フユトは思わず息を飲んだ。自分の母親とは違う、洗練された大人の魅力。以来、彼は部活動に没頭するようになった。
フextrasユトの母親は、四十代半ばの優しい女性で、近所でも評判の美人だった。長い髪を後ろでまとめ、いつも清潔なエプロンを着けている。フユトは幼い頃から彼女を慕っていたが、最近は少し違う感情が芽生えていた。部で手に入れた素材を見るたび、自分の母親の姿を重ねてしまうのだ。交換された動画の中には、母親たちが家事をする何気ないシーンが多く、そこで見せる自然な動きや表情が、フユトの想像を掻き立てた。
ある日の部活動後、フユトは一人で部室に残った。手元には、今日交換した動画のデータが入った小さなメモリーカード。画面を開くと、そこには憧れの存在がいた。部員の先輩が撮影したという、隣クラスの友人・タカシの母親の動画だ。彼女は三十代後半のキャリアウーマンで、仕事から帰宅した後のリラックスした様子が収められていた。ソファに座り、足を組んで本を読む姿。時折、髪をかき上げる仕草。すべてが洗練され、フユトの心を強く惹きつけた。この女性は、フユトにとって遠い憧れだった。学校のイベントで何度か顔を合わせ、優しい言葉をかけられたことがある。あの温かな声と微笑みが、今も耳に残っている。
フユトは動画を繰り返し再生した。画面越しの彼女は、まるで自分のために動いているかのようだった。部則では、これを「おかず」として楽しむだけ。決して現実で接触してはならない。それが部の存続を守る鉄則だ。だが、フユトの頭に、ある考えが浮かんだ。もし、この動画をきっかけに、直接彼女と関わることができたら? 例えば、動画の存在を匂わせて会う口実を作るとか、共通の話題から自然に近づくとか。交換で手に入れた素材を使えば、憧れの女性と親しくなれるかもしれない。心臓が早鐘のように鳴った。
それは、当然ながら危険な考えだった。部のルールを破る行為は、即座に追放を意味する。最悪の場合、動画が外部に漏れ、母親たちにバレてしまう。学校側に知られれば、部全体が崩壊する。フユトはわかっていた。先輩たちは何度も警告していた。「素材はあくまで仮想の楽しみ。現実と混ぜるな」と。だが、憧れの強さが理性を上回り始めていた。タカシの母親の動画は、特に魅力的だった。彼女の日常の細かな仕草――コーヒーを淹れる手つき、窓辺で花を眺める横顔――が、フユトの想像を膨らませる。直接話せば、もっと深い部分を知れるのではないか。
翌日、学校の廊下でフユトはタカシとすれ違った。タカシは部員の一人で、明るい性格の十九歳。母親のことを話題に振ってみた。「昨日交換した動画、すごく良かったよ。君の母親、ほんとに素敵だね」。タカシは笑って応じた。「でしょ? あれ、俺の自信作だよ」。その会話の中で、フユトはさりげなく探りを入れた。「たまには、母親さんたちに会う機会とかないかな?」。タカシは怪訝な顔をしたが、冗談だと受け流した。フユトの胸はざわついた。まだ本気で実行するつもりはない。ただ、可能性を考えるだけで興奮した。
家に帰ると、フユトは自分の母親に目を向けた。夕食の準備をする彼女の背中。部で撮影した自分の素材を思い浮かべる。母親はいつも通り、優しく声をかけてきた。「おかえり、フユト。今日はどうだった?」。その声に、フユトは少し罪悪感を覚えた。部活動は家族を裏切るものだ。なのに、憧れの女性のことを思うと、止まらない。夜、ベッドで動画をもう一度見る。画面の彼女が微笑む。もし、これをネタに連絡を取ったら? 例えば、タカシ経由で母親の連絡先を聞く。あるいは、学校の保護者会で偶然を装う。
部の先輩、リョウは二十歳の古株で、部をまとめていた。彼はフユトの変化に気づき始めていた。ある部活動の席で、リョウが皆に言った。「最近、新入りがいきいきしてるな。でも、ルールを忘れるなよ。素材はここまで。外で使ったら終わりだ」。フユトは頷いたが、心の中では葛藤が渦巻いていた。憧れの女性――タカシの母親、名前はミサトさん――の動画は、フユトの日常を変えていた。彼女の趣味が園芸だと知り、自分の家の庭を思い浮かべる。共通点を探せば、話は弾むかもしれない。
数日後、フユトは決心した。直接的な接触は避けつつ、間接的に近づく方法を。タカシに相談めかして聞いた。「母親さん、最近忙しそうだね。何か手伝えることある?」。タカシは驚いたが、母親が庭の手入れで困っていると漏らした。チャンスだ。フユトはボランティアを申し出た。週末、ミサトさんの家を訪れる口実ができた。心臓が激しく鼓動する。動画の彼女が、現実で目の前に現れる。
当日、フユトは緊張しながらドアを叩いた。ミサトさんが迎えに出た。動画で見慣れた笑顔が、そこにあった。「あら、タカシの友達? ありがとう、助かるわ」。庭仕事の手伝い中、フユトは自然に会話を弾ませた。花の名前、土の扱い方。ミサトさんは優しく教えてくれた。動画の仕草が、重なる。だが、フユトは動画の存在を匂わせないよう必死だった。楽しかった。憧れが、少しずつ現実になる。
しかし、帰り道で不安が募った。タカシにバレたら? 部に知られたら? 部の存続が危うくなる。リョウの警告が頭をよぎる。それでも、フユトは止められなかった。次の一歩を踏み出したい衝動が、強かった。ママ借り部は、ただの交換の場から、フユトにとって新たな扉を開くものになっていた。禁断の行為が、部の運命を揺るがせようとしている……。

