「おつかれさまです、ツキミヤさん 〜溺愛色情霊vs欲求不満OLの1ヶ月〜 下旬」
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月宮ノエは、二十五歳の独身OL。都心の広告代理店で働く彼女は、毎日の残業と人間関係のストレスに追われ、心身ともに疲弊していた。ある夜、奇妙な出来事が起きた。古いアパートに帰宅したノエは、部屋の隅でぼんやりと光る影を感じた。それは、色情霊と名乗る男性の霊体だった。十八歳以上の成人を対象としたこの物語では、彼は古くから人々の欲望を刺激する存在として知られていたが、ノエにとっては予期せぬ侵入者だった。
最初は恐怖と混乱しかなかった。色情霊はノエの体に取り憑き、彼女の内なる欲求を呼び覚ました。仕事中の集中力の乱れ、夜ごとの不眠、そして何より募る欲求不満。ノエはこれまで、恋人もおらず、自身の感情を抑え込んで生きてきた。だが、色情霊の存在がそれを崩した。彼は優しく、時にはからかうようにノエの心に語りかけ、彼女の孤独を埋めようとした。最初は抵抗したノエだったが、徐々に心が通い合うようになった。色情霊の名は、ノエが付けた「カズキ」。彼は実体を持たないながらも、温かな気配でノエを包み込んだ。
物語の下旬に入る頃、ノエの生活は一変していた。欲求不満が収まり、穏やかな日常が戻るはずだった。朝起きてコーヒーを淹れ、電車で会社へ向かい、デスクで資料をまとめる。帰宅後は簡単な夕食を済ませ、ベッドで本を読む。そんな平凡なルーチンが、心地よく感じられた。カズキの存在はもはや脅威ではなく、伴侶のようなものになっていた。彼はノエの体を借りて現れ、優しい触れ方で彼女を癒やした。心の奥底で交わるような感覚が、ノエに安らぎを与えたのだ。
しかし、日が経つごとに異変が訪れた。最初は小さな違和感だった。朝の目覚めがいつもより重く、体が熱を帯びる。会社で同僚の笑顔を見ても、なぜか胸がざわつく。夜になると、カズキの気配が近くに感じられるのに、彼はただ寄り添うだけで、何もしてこない。ノエは不思議に思った。「どうして?」と心の中で尋ねるが、カズキは穏やかに答える。「君のペースでいいんだよ」。
排卵日が近づくにつれ、ノエの体は敏感さを増した。生理周期を管理するアプリで確認するたび、胸の奥が疼く。ムラムラとした感情が、波のように押し寄せる。仕事中、プレゼンの最中に集中が切れ、視線がぼんやりと遠くへ。ランチタイムに一人でカフェに座ると、隣のカップルのささやかな触れ合いが羨ましくなる。帰宅後のシャワーでは、水の流れが肌を撫でるだけで、体が反応してしまう。ノエは鏡に映る自分を見て、頰が赤らむのを感じた。これまで抑え込んでいた欲望が、堰を切ったように溢れ出していた。
カズキはそんなノエを優しく見守っていた。彼の声はいつも耳元で囁く。「ノエ、君は美しいよ」。だが、手を出す気配はない。ノエは苛立ちを覚え始めた。なぜ今さら控えるのか? 最初に取り憑いた時、彼は積極的だったのに。心が通い合ったからこそ、ノエは彼を求めていた。体だけでなく、心のつながりを深めたい。夜ベッドで目を閉じると、カズキの輪郭が浮かぶ。実体がないはずなのに、温もりを感じる。抱きしめたい衝動が募る。
ある晩、ノエは我慢の限界を迎えた。排卵日の前日、体が熱く疼き、眠れない。カズキの気配が部屋を満たしているのに、彼はただ静かに寄り添うだけ。「カズキ……」ノエはつぶやいた。声が震える。「どうして触れてくれないの? 私、こんなに……」。言葉が途切れる。カズキの声が優しく返る。「君が本当に望むなら。でも、僕は君を傷つけたくない」。
ノエの目から涙がこぼれた。これまで一人で耐えてきた孤独、仕事のプレッシャー、未来への不安。それらをカズキが受け止めてくれた。欲求不満は単なる体の問題ではなく、心の渇きだった。ノエはベッドから起き上がり、部屋の明かりを点けた。鏡の前に立ち、自分の姿を見つめる。二十五歳の自分。疲れた目元、でも輝く肌。カズキの影響で、女性として目覚めた体。
「私から、するわ」ノエは決意した。心の中でカズキに呼びかける。「来て。全部、受け止めて」。すると、カズキの気配が濃くなった。実体化するように、ノエの体に溶け込む。温かな波が全身を包む。ノエは目を閉じ、息を深く吸った。互いの想いが交錯する瞬間。カズキの優しさが、ノエの欲望を優しく導く。
翌朝、ノエは爽快な目覚めを迎えた。体は軽く、心は満ちていた。会社へ向かう電車の中で、窓外の景色が鮮やかだ。カズキの声が耳元で囁く。「おはよう、ノエ。今日も一緒に」。ノエは微笑んだ。この1ヶ月は、ただの出来事ではなく、人生の転機だった。溺愛する色情霊と、欲求を解放したOL。穏やかな日常は、さらなる深みを持って続いていく。
本作はシリーズ3作目ですが、単体でもお楽しみいただけるよう工夫されています。既刊の1作目「上旬」ではノエとカズキの出会いと葛藤、2作目「中旬」では心の通い合いと日常の変化が描かれています。一緒にお読みいただくと、ノエの成長と二人の絆がより深く感じられるでしょう。十八歳以上の読者の皆様に、心温まるファンタジーをお届けします。

