文化祭の準備で忙しい生徒会長の小糸をサポートする後輩彼氏の紬くん。何でも一人で抱え込みがちな会長をなんとか支えたい……と思っていた矢先、会長は心身ともに疲労がピークでダウンしてしまう。珍しく弱音を漏らす会長を介抱しながら、彼女に必要なことは「誰かに思いっきり甘えること」だと気づく紬くん。会長の張りつめた糸をほぐすため、手芸部の才能を活かしてコスプレとおしゃぶりを用意してたくさん甘やかすことに……!?
「繭中のあなたへ」
「繭中のあなたへ」
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文化祭の喧騒が校舎を包む秋。生徒会長の小糸は、いつも通り完璧主義の笑顔を浮かべて奔走していた。クラスごとの出し物調整から、来賓のスケジュール管理、さらには予算の微調整まで――彼女のデスクは書類の山に埋もれ、夜遅くまで電灯が灯る生徒会室は、まるで戦場のような熱気に満ちていた。そんな小糸の傍らで、ひっそりと、しかし確実に支える存在がいた。後輩で彼氏の紬くん。手芸部に所属する彼は、細やかな手先の器用さを活かし、ポスターの装飾や小道具の製作を手伝っていた。「会長、ちょっと休憩しませんか? お茶淹れますよ」――そんなさりげない気遣いを繰り返す紬の視線は、いつも小糸の疲れた横顔を優しく追っていた。
小糸は強い。入学以来、生徒会を率い、誰よりも学校を愛し、皆の期待を一身に背負う少女だ。でも、それが仇となる。一人で抱え込み、弱みを見せまいとする彼女の心は、まるで張りつめた糸のように、いつ切れてもおかしくなかった。紬はそんな彼女を、ただ見守ることしかできなかった。いや、したくなかった。「もっと支えたいのに……」と、部室のミシンを踏む足が、苛立ちを紛らわせるように速くなる夜もあった。
そして、ついにその日が来た。文化祭前日の夕暮れ、生徒会室で小糸が崩れ落ちたのだ。書類の山に突っ伏し、細い肩が震える。熱はないのに、顔は青白く、唇がわずかに動く。「……ごめん、紬くん。もう、限界かも……」――珍しい、弱音。いつも凛とした瞳が、涙で潤んでいる。紬は慌てて駆け寄り、彼女を抱き上げてソファに横たえた。冷たいタオルで額を拭き、温かいハーブティーを口元に運ぶ。介抱する手は優しく、しかし心臓は激しく鳴っていた。小糸の指が、そっと紬の袖を掴む。その感触に、紬は閃いた。彼女に必要なのは、休養なんかじゃない。誰かに、思いっきり甘えきることだ。完璧な会長の仮面を脱ぎ捨て、ただの女の子として、溶けるように委ねること。
翌朝、紬は手芸部の部室に籠もり、徹夜で作業に没頭した。ミシンと針、布地とリボンが飛び交う中、彼の頭に浮かんだのは、幼い頃の絵本から着想を得たアイデア。小糸の「張りつめた糸」をほぐすために、特別な「甘え道具」を作るのだ。出来上がったのは、ふわふわのウサギ耳付きコスチューム――淡いピンクのワンピースに、尻尾のクッションまで丁寧に縫い付け、まるで森の妖精のような可愛らしさ。そして、もう一つの秘密兵器。おしゃぶり型のキャンディーホルダー。柔らかいシリコン素材で、手作りでデコレーションしたそれは、甘いお菓子を忍ばせ、口にくわえるだけでリラックス効果を促す工夫満載だ。
夕方、生徒会室に戻った紬は、ベッドのように整えたソファに小糸を招いた。「会長、今日は僕の言う通りにして。甘えていいんですよ」――戸惑う小糸に、そっとコスチュームを着せ替える。鏡に映る自分を見て、彼女の頰が赤らむ。「ば、ばかっ……こんなの、恥ずかしい……」でも、ウサギ耳を触る指は、どこか嬉しげ。紬は優しくおしゃぶりを差し出し、「これで、全部忘れて。僕が守りますから」と囁く。小糸の唇が、ゆっくりとそれを受け入れる。甘いキャンディの味が広がる頃、彼女の肩から力が抜け、穏やかな吐息が漏れた。紬の胸に寄りかかり、つぶやく。「……ありがとう、紬くん。こんな私でも、いいの?」彼はただ、強く抱きしめて頷いた。
文化祭の幕が開くまであと一日。張りつめた糸は、甘い甘やかしで優しく解けていく。二人の小さな秘密は、きっとこの秋の思い出に、柔らかな色を添えるだろう……!?