「怒らないで星川さん3」



「怒らないで星川さん3」
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星川さんは、なんというか、言葉遣いがかなり鋭い。いや、鋭いなんて生ぬるい表現かもしれない。彼女の口から飛び出す言葉は、まるで刃物のようにピリッとしていて、聞く者を一瞬で凍りつかせる。大学に入ってすぐ、彼女のその性格に初めて触れたとき、正直面食らった。初対面で「何そのダサい鞄」と一刀両断されたあの瞬間は、今でも忘れられない。それなのに、なぜか彼女の周りにはいつも人が集まる。理由? それはもう、見た目が圧倒的に魅力的だからだ。
星川さんの顔は、まるで雑誌の表紙を飾るモデルのように整っている。大きな瞳に、透き通った肌。髪はサラサラで、風が吹くたびにふわりと揺れる。スタイルも抜群で、どんな服を着ても絵になる。彼女がキャンパスを歩けば、すれ違う人の視線が自然と集まる。それくらい、彼女の存在感は特別だ。でも、彼女の魅力は見た目だけじゃない。どこかミステリアスで、つかみどころがない雰囲気がある。それが、僕を含めた周囲の人を引きつけるのだろう。
ただ、彼女の態度は正直、かなり挑戦的だ。自分から話しかけることはほとんどないし、話しかけられてもそっけない。初めは「感じ悪いな」と思っていたけど、最近はそれが彼女の個性だとわかってきた。だって、どんなに冷たく振る舞っても、結局、彼女は僕の言うことを聞いてくれるのだ。たとえば、サークルの準備で「ちょっと手伝ってよ」と頼めば、ぶつくさ文句を言いながらも、ちゃっかり作業を終わらせてくれる。そこが、なんだか憎めない。
今朝も、いつもより少し早起きして大学に向かったら、運よく星川さんにばったり会えた。朝のキャンパスはまだ静かで、木々の間を朝日がキラキラと照らしている。そんな中、彼女の姿を見つけた瞬間、僕は思わず心の中でガッツポーズ。「早起きは三文の得、なんて言うけど、これは五億の得だな!」なんて、ひとりでテンションが上がってしまった。
「おはよう、星川さん!」と、できるだけ明るく声をかけてみた。彼女は一瞬、僕をちらりと見て、いつものように一言。「…うっさい。」その冷たい声に、思わず苦笑い。でも、なぜか嫌いじゃない。このやりとりが、僕と彼女の日常なんだ。
そんなことを考えながら歩いていると、突然、サークルの後輩である美咲ちゃんが駆け寄ってきた。「先輩! あの、ちょっと話したいことが…!」と、頬を赤らめながらモジモジしている。なんだろう、と思いつつ話を聞くと、彼女、急に真剣な顔で「先輩のこと、ずっと好きでした!」と告白してきた。朝からそんな爆弾発言、予想もしてなかった。頭が真っ白になりながら、なんとか「え、うそ、急に何!?」と返すのが精一杯。
その瞬間、視線を感じて横を見ると、星川さんが少し離れた場所でこっちをじっと見ている。彼女の目は、まるで何かを見透かすよう。ちょっとドキッとしたけど、なぜかその視線に妙な安心感もあった。星川さんって、いつもそんな感じだ。冷たくて、でもどこかでちゃんと見ててくれる。
美咲ちゃんの告白にどう答えるか、まだ頭整理しきれていないけど、星川さんのあの視線を思い出すと、なんだか落ち着く。今日はサークルの後にでも、星川さんとじっくり話してみようかな。彼女、きっとまた毒舌で切り返してくるんだろうけど、それでもいい。だって、星川さんは星川さんだから。彼女のその不器用な優しさに、僕はいつも救われている気がする。

