PR

『影に染まりゆく〜アスリントの妹神官〜』BBQ大好き

『影に染まりゆく〜アスリントの妹神官〜』

▶ 無料サンプルはこちら

 

 

 

『影に染まりゆく〜アスリントの妹神官〜』

▶ 続きはこちら

 

 

 

 

 

 

 

==========================

影に染まりゆく〜アスリントの妹神官〜

1 妹の変化を止めるには、魔王討伐しかないって本当か……?

辺境の小さな町、アスリント。石畳の道はいつも少し湿っていて、朝になると教会の鐘が遠くに響く。そんな平凡すぎる場所で、俺たち兄妹はひっそりと暮らしていた。

俺の名前はロイド。二十歳そこそこの、ただの冒険者崩れだ。そして妹のトリーナは、十八歳になったばかりの神官見習い。白いローブがよく似合う、優しくてちょっと内気な子だった。……過去形なのが、今はもう痛い。

ある日突然、トリーナの身体に異変が起きた。瞳の奥に赤い光が揺れるようになり、夜になると熱っぽい吐息を漏らして、俺の名を呼ぶ声が震える。町の賢者にも、神殿の司祭にも原因はわからなかった。ただ一つだけ確かなのは、遠く古い伝説に語られる「魔王の呪い」に似ているということ。そしてその魔王は、数百年前に封印されたはずだということも。

だから俺は決めた。封印の真相を突き止め、妹を元に戻す。それだけが、今の俺にできることだった。

ダンジョンへ潜り、モンスターと戦い、得た素材を合成して強くなる。どこにでもありそうな王道の旅。でも俺には、もう後戻りする場所なんてない。

2 夜が来るたびに、天秤が揺れる

トリーナの状態は、日を追うごとに悪くなっていった。昼間はなんとか平静を保っていられるけど、陽が沈むと途端に苦しそうに身をよじらせる。彼女が求めるのは「魔力供給」――つまり、男の生命力そのものらしい。俺がそばにいて、そっと手を握ってやると、少しだけ楽になるって言う。

でも、そんなことを繰り返していたら、俺の身体がもたない。冒険に出て、ダンジョンを攻略して、妹を完全に救うための手がかりを探さなきゃいけない。でも夜、トリーナが震えながら「お兄ちゃん……もう少しだけ、そばにいて……」って涙目で訴えてくるのを見ると、どうしても足がすくむ。

優しい子だったトリーナは、どんな選択をしても怒ったりしない。俺が「今日はダンジョンへ行く」って言えば、弱々しく微笑んで「うん、気をつけてね」って送り出してくれる。でも、満たされない夜が続くと、彼女はひとりで耐えきれなくなって……どこかへ消える。朝に戻ってくるとき、服の裾が乱れていたり、首筋に赤い痕が残っていたりする。

アスリントの夜は、霧が深くて人目につかない。誰もが見て見ぬふりをする。そんな町だから、トリーナが何をしていても、誰にも咎められない。俺が気づいたときには、もう遅いのかもしれないって、怖くなる。

3 拾った破れた布切れが、俺に教えてくれたこと

師匠の魔女に教わった「合成術」は、便利な技術だった。薬草と鉱石を組み合わせれば強力な回復薬になるし、モンスターの爪と羽を混ぜれば武器が強化できる。普段はそんなことしか使ってなかった。

でも、ある夜、路地裏で妙なものを見つけてしまった。白い神官服の端切れ。明らかにトリーナのものに似ている。でも、ところどころ引きちぎられたように破れて、濡れたような染みが付いていた。そのそばに、数本の長い銀髪。トリーナと同じ色だ。

気味が悪くて、でも確かめたくて、俺は反射的に合成術をかけた。すると――

頭の中に、聞いたこともない甘い声が響いた。月明かりの下、誰かにすがりつくように身体をくねらせて、恥ずかしそうに目を潤ませている女性の姿。知っている。間違いない、トリーナだ。でも、普段の彼女とはまるで別人みたいに、頬を紅潮させて、誰かに必死に媚びている。

その記憶はすぐに途切れて、俺は膝から崩れ落ちた。あれは……一体いつ、誰と? 俺がダンジョンに潜っている隙に? それとも、俺が疲れて眠っている横で?

それからというもの、夜道を歩くたびに似たような痕跡を目にするようになった。破れた布、絡まった髪、乾いた染み……。全部、トリーナのものに違いない。でも、彼女は朝になると何事もなかったように「お兄ちゃん、おはよう」って微笑む。俺は聞けない。聞くのが怖い。

4 ねえ、お兄ちゃん……トリーナ、もう我慢できないかも……

町外れの古い神殿の奥、魔王が封印されたという地下迷宮。それがトリーナを救う唯一の手がかりらしい。俺は必死で潜り、戦い、素材を集めて強くなっていく。でも、夜が来るたびに妹の瞳は深く赤く染まり、声は甘く蕩けていく。

「お兄ちゃん……トリーナ、今日も頑張ったよ。だから、ちょっとだけ……いいよね?」

そんな言葉と一緒に、彼女は俺の胸にすがりついてくる。熱い吐息が首筋にかかって、俺までおかしくなりそうになる。でも、これ以上妹に力を与えたら、きっと取り返しがつかなくなる。

それとも、もう遅いのか。

深い闇の中、トリーナは少しずつ知らない誰かに変わっていく。俺が旅を終えて、魔王を倒して、封印を解いたとき――そこに待っているのは、昔の優しい妹の姿なのか、それとも……

最後に俺たちが手に入れるのは、普通の兄妹の未来なのか。それとも、もっと違う、取り返しのつかない何かか。

それは、俺の選択次第だ。

……お前なら、どうする?