「先輩のために、抱かれます。」



「先輩のために、抱かれます。」
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先輩のために、抱かれます。
読書部の部室は、いつも静かだった。古い校舎の三階、窓から見えるのは校庭の端っこにある桜の木だけ。そこにいるのは、部長の村井健斗と、私、浅田悠里の二人きり。
健斗先輩は二年生で、ちょっと大人びた雰囲気がある。いつも眼鏡を直しながら本を読んでいて、声は小さめだけど、優しい。対して私は一年生で、みんなからは「クール」って言われるけど、ただ人見知りが激しいだけ。健斗先輩には少し厳しくしてしまうのも、照れ隠しみたいなものだった。
付き合って半年くらい経つけど、学校ではあんまりベタベタしない。部室で二人きりになると、そっと手を繋いだり、肩に頭を預けたり。そんなささやかなことが幸せだった。
でも、ある日、それが全部崩れた。
私の胸が大きいことを、ずっと矯正下着で押さえ込んでた。それが体育の着替えのときにバレて、クラス中に広まってしまった。「浅田って実はすごいんじゃん」「隠してたのかよ」って、ひそひそ話が止まらなくて。次の日から、視線が痛かった。
そんな中、三年の赤木龍雅先輩に呼び止められた。
赤木先輩は有名なプレイボーイで、顔が良くて背が高くて、女の子にモテまくる。でも噂じゃ、付き合った子をすぐに捨てるって聞いてた。
屋上で待ち構えられて、「なぁ、浅田。噂聞いたよ。隠してたんだって?」って、ニヤニヤしながら近づいてきた。逃げようとしたけど、壁に追い詰められて。
「俺と遊ばない? 絶対気持ちよくしてやるよ」
吐き気がした。でも、頭の片隅で変な考えが浮かんだ。
健斗先輩、最近ちょっと疲れてる。部活の顧問に怒られたり、試験の成績が伸び悩んでたり。私にできることって何だろう。
ふと、ネットで見た「寝取らせ」って言葉を思い出した。好きな人を喜ばせるために、他の男と……ってやつ。
馬鹿げてる。でも、健斗先輩が喜ぶなら、私、なんでもする。
「赤木先輩、条件があります」
私は震える声で言った。
「村井先輩に見せながら、してください」
赤木先輩、目を丸くして、それから大笑いした。「お前、相当変態だな。いいよ、面白そうじゃん」
その夜、健斗先輩に全部話した。
「私、赤木先輩に抱かれます。先輩が見てる前で」
最初は冗談だと思ったみたい。でも私が本気だってわかると、顔が真っ青になった。
「やめろよ、そんなの……」
でも、目が揺れてた。拒絶してるのに、どこか期待してるような。
男の人って、そういうの好きなんだよね。きっと。
「先輩が喜ぶなら、私、平気だから」
嘘だった。怖かった。でも、健斗先輩が少しでも元気になってくれるなら。
結局、健斗先輩は頷いた。震える手で。
週末、部室で約束した。
赤木先輩が先に待ってて、私が入ると鍵をかけられた。健斗先輩は本棚の陰から、息を殺して見てる。
「じゃあ、始めようか」
赤木先輩が近づいてきて、私の肩に手を置いた。制服のボタンを外されていく音が、妙に大きく響く。
寒かった。でも、熱かった。
赤木先輩の手が、私の肌を這う。矯正下着を外された瞬間、健斗先輩が小さく息を飲んだのが聞こえた。
「すげぇ、ほんとにでかいな」
赤木先輩の声が耳元で。息が熱い。
私は目を閉じた。健斗先輩のことだけ考えてた。
これで、先輩が喜んでくれるなら。
赤木先輩に押し倒されて、床に敷かれた座布団の上に横たわる。スカートが捲れて、足が露わになる。
「可愛いな、浅田」
違う。私は健斗先輩のものなのに。
でも、身体は正直だった。赤木先輩の指が触れるたび、びくっと反応してしまう。
健斗先輩の顔が見えた。本棚の隙間から、覗いてる。目が真っ赤で、唇を噛んでる。
ごめんね、先輩。でも、これでいいんだよね?
赤木先輩が入ってきたとき、思わず声が出た。
痛かった。でも、どこかで気持ちよかった。
健斗先輩が見てる。それだけで、頭が真っ白になる。
赤木先輩の動きが激しくなるたび、部室に響く音が恥ずかしくて、でも止められなかった。
「ほら、もっと声出せよ。村井に見せてやれよ」
赤木先輩が笑いながら言った。
私は首を振った。でも、身体は勝手に反応して、声が出てしまう。
健斗先輩の手が、本棚を握り潰しそうなくらい震えてた。
終わった後、赤木先輩が満足そうに去っていった。
部室に残されたのは、私と健斗先輩だけ。
私は震えながら起き上がって、健斗先輩の前に跪いた。
「先輩……喜んで、くれましたか?」
健斗先輩、黙ってた。涙が頬を伝ってる。
「ごめん……ごめんね、悠里……」
違った。
健斗先輩は喜んでなんかいなかった。苦しそうに顔を歪めて、私を抱きしめた。
「俺、馬鹿だ……こんなの、見たくなかった……」
私は驚いて、健斗先輩の背中に手を回した。
「でも、先輩が……そういうの好きかなって……」
「違う! 俺はただ、悠里が好きなんだよ!」
健斗先輩が叫んだ。初めて聞いた、大きな声。
「他の男に触られるの、見たくない。悠里は俺の……俺だけの……」
涙が止まらなかった。
私が勝手に決めたことだった。健斗先輩を喜ばせようとしたのに、傷つけてしまった。
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
二人で泣きながら抱き合った。部室の床に座り込んで、いつまでも。
その後、赤木先輩にはもう二度と近づかないって約束した。健斗先輩が直接言ってくれた。
「浅田は俺の彼女だ。もう手出しするな」
赤木先輩、ちょっと驚いた顔して、それから笑って引き下がった。
それから私たち、もっと仲良くなった。
部室では手を繋ぐだけじゃなくて、ちゃんとキスするようになった。健斗先輩が「悠里」って名前で呼んでくれるようになった。
あの日のことは、二人だけの秘密。
馬鹿げたことをしたけど、結果的に、健斗先輩の本当の気持ちを知れた。
私はもう、矯正下着なんて使わない。
健斗先輩が「そのままでいい」って言ってくれたから。
これからも、読書部は二人だけ。
静かで、温かくて、ちょっとだけ甘い場所。

