「今週もアイツがやってくる」
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登場人物
ヒロイン
・鷺沼小春(さぎぬま こはる)
17歳の高校2年生。生まれつき体が弱く、幼い頃から頻繁に病院のベッドを温めていた。色白で華奢な体躯に、大きな瞳が印象的な少女だ。入院生活の孤独を埋めるように、本や絵を描くのが好きで、心優しく少し内気な性格。病弱ゆえに学校を休みがちだが、強い意志を持ち、夢はイラストレーターになること。復学した今も、毎日のように体調を気遣う日々を送っている。
特別教師
・氷室大吾(ひむろ だいご)
28歳の若き教育者。学校の特別講師として派遣されるベテランで、厳格な外見とは裏腹に、生徒の心理を鋭く読み取る洞察力を持つ。黒髪をきっちり撫でつけ、眼鏡の奥に潜む鋭い視線は、時に人を射抜くよう。教育熱心で、落ちこぼれの生徒を這い上がらせることに情熱を燃やすが、その方法は時に境界を越えるほど大胆だ。過去に自身の挫折を経験したため、弱者を放っておけない一面もある。
彼氏
・早見竜也(はやみ たつや)
18歳の高校3年生。小春の幼馴染みで、2年前の入院中に知り合った恋人。心臓の持病を抱え、現在も長期入院中だ。明るくお調子者で、小春の病室を笑顔で埋め尽くす存在。入院生活の辛さを共有し、互いに励まし合って付き合い始めた。遠距離の今も、毎日のようにメッセージを送り、彼女の心の支えとなっているが、病床からの無力感に時折苛まれる。
あらすじ
鷺沼小春の日常は、いつも白い天井と消毒液の匂いに彩られていた。生まれつきの虚弱体質が災いし、幼少期から何度も入院を繰り返す日々。学校へ通うどころか、ベッドから起き上がるのもままならない時期が長く続き、彼女の心には静かな諦めが根付いていた。そんな中、2年前の夏、同じ病棟で出会ったのが早見竜也だった。彼もまた、心臓の疾患で長期入院中。病室の窓辺で本を読む小春に、竜也は自作の折り紙を差し入れ、冗談めかして「これで元気出せよ」と声をかけた。あの出会いが、すべてを変えた。お互いの病状を隠さず語り合い、深夜の病室で未来の夢を囁き合ううちに、二人は自然と恋に落ちた。竜也の明るさが、小春の心に温かな灯りを灯したのだ。
やがて小春の容態は安定し、奇跡的に復学を果たす。制服に袖を通し、久しぶりの教室のざわめきに胸を高鳴らせたが、現実は甘くなかった。入院のブランクが長すぎたせいで、成績は底辺を這い、出席日数も基準を満たさない。授業についていけず、ノートを取る手が震える日々が続く。それでも、竜也の励ましの言葉が彼女を支えた。「お前は強いよ。一緒にがんばろうぜ」。しかし、運命は再び試練を投げかける。復学直後、体調を崩して学校を休む日が増え、留年寸前の危機に陥った。
そんな小春の窮地を、学校側が救いの手を差し伸べた。校長の温情で、毎週土曜日の午後に「特別授業」として自宅補習が許可されたのだ。これは単なる授業ではなく、出席扱いとなり、彼女のペースに合わせた柔軟なカリキュラムが組まれる。教科書を広げ、ゆっくりと内容を噛み砕く時間は、小春にとってかけがえのないものだった。教師の熱意に触れ、久しぶりに「自分でもやれるかも」と希望の芽が生まれる。母に感謝の言葉を繰り返し、竜也にも喜びを報告した。あの土曜日の朝、窓から差し込む柔らかな陽光が、彼女の頰を優しく撫でた。
ところが、当日の午後。玄関のチャイムが鳴り、ドアを開けた小春の視界に飛び込んできたのは、予想外の男の姿だった。スーツに身を包み、眼鏡の奥から静かに微笑むその人物――特別教師、氷室大吾。穏やかな物腰とは対照的に、どこか底知れぬ深みを感じさせる視線が、小春を捉えて離さない。「初めまして、鷺沼さん。君のペースで、じっくりと進めていきましょう」。その言葉に、小春は無意識に頰を赤らめた。竜也の優しい笑顔とは違う、静かな迫力。授業が始まるリビングで、二人の距離は、知らず知らずのうちに縮まっていく……。
※NTR要素を含みます。心の揺らぎが、静かに忍び寄る物語。