「無防備だった頃2 覚えたての快楽」
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舞台は地方の静かな町。主人公の壮馬幸四郎(18歳)は、陸上部に所属する大学一年生。長身でがっしりとした体格、明るい性格で周囲から頼られる存在だったが、地区大会でのケガがきっかけで部活から距離を置くようになる。走ることが生きがいだった彼にとって、競技から離れる日々は心にぽっかりと穴を空けた。焦燥感と無力感に苛まれる中、唯一の心の拠り所は幼馴染の小山澪(18歳)だった。
澪は同じ大学に通うクラスメイトで、学級副委員長を務めるしっかり者。ショートカットの髪と、笑顔の奥に垣間見える優しさが特徴だ。しかし、実は抜けている一面もあり、忘れ物やドジっ子な行動で周囲を和ませることも多い。壮馬とは幼い頃からの付き合いで、互いの家を行き来するような親密な関係だった。彼女は壮馬のケガを知り、落ち込む彼を励まそうと頻繁に声をかけるが、どこかぎこちない空気が流れる。
物語は、前作『無防備だった頃』で二人が初めて心と体を重ねた後の日々から始まる。あの夜以来、壮馬は澪を前にすると抑えきれない衝動に駆られるようになった。ケガで陸上への情熱を失い、目標を見失った彼にとって、澪との時間は心の空白を埋める唯一の手段だった。澪もまた、壮馬の熱い視線や力強い腕に身を委ねることで、普段の自分では感じられない高揚感に溺れていく。互いに言葉少なく、ただ本能のままに求め合う日々が続くが、その激しさはどこか危うい。
ある日、大学の図書館で二人きりになった際、壮馬はまたしても衝動を抑えきれず、澪の手を引いて人気のない書庫へと連れ込む。静寂の中、互いの呼吸だけが響き合う。澪は戸惑いながらも、壮馬の熱に流され、頬を染めて目を閉じる。しかし、その場を偶然通りかかったクラスメイトに気配を気づかれ、危うく見つかりそうになる。二人は慌ててその場を離れるが、この出来事をきっかけに、澪は自分たちの関係について考えるようになる。
澪は壮馬との時間が心地よい反面、彼の衝動的な行動に不安を覚え始めていた。彼女自身、初めて知った感情の昂りに戸惑いながらも、どこかで「このままでいいのか」と自問する。一方、壮馬は澪への想いをどう言葉にすればいいのかわからず、ただ彼女を強く抱きしめることでしか気持ちを伝えられない。ケガで失った自信、未来への不確かさ、そして澪への複雑な感情が、彼をさらに衝動へと駆り立てる。
物語の後半、大学の文化祭が近づく中、澪は実行委員として忙しく動き回る。壮馬はそんな彼女を遠くから見つめ、かつての自分とのギャップに苛まれる。ある夜、文化祭の準備で遅くなった澪を家まで送る途中、二人は公園で足を止める。星空の下、澪は勇気を振り絞って本音を口にする。「こうしろう、わたしたち、このままでいいの?」。その言葉に、壮馬は初めて自分の行動が彼女を縛っているかもしれないと気づく。
壮馬は澪に自分の弱さを打ち明ける。ケガで走れなくなったこと、将来への不安、そして彼女を求めることでしか自分を保てなかったこと。澪はそんな彼を静かに受け止め、「一緒に考えよう」と微笑む。二人は初めて、衝動や本能ではなく、互いの心を通わせる時間を持つ。物語は、激しい情熱の中でもがきながらも、互いを理解しようとする二人の新たな一歩で幕を閉じる。
衝動と感情の間で揺れる若者たちの心の機微を描きつつ、彼らが一歩ずつ関係を築いていく姿を丁寧に描写した本作。情熱的な場面と繊細な心の動きが交錯し、読者を惹きつける。

