『現実改変アプリでハーレム学園を作ろう!』




『現実改変アプリでハーレム学園を作ろう!』
第一章:漆黒のスマホと、書き換えられた現実
都内の私立総合大学に通う葵(あおい)は、自分の存在感の薄さに諦めを感じながら日々を過ごしていた。要領が悪く、講義でもサークル活動でも周囲の影に隠れてしまう地味な青年。彼にとってキャンパスは、他人の華やかな青春を遠目から眺めるだけの退屈な場所でしかなかった。
そんな葵の人生が一変したのは、講義棟の裏庭で一台の奇妙なスマートフォンを拾ったことだった。
艶消しのブラックメタリックな筐体。画面にはただ一つ「World Rewrite(ワールド・リライト)」という謎のアプリが起動していた。画面の入力欄にはこう書かれていた。
【改変したい設定を入力してください】
半信半疑の葵は、冗談半分で画面に文字を打ち込んだ。
『キャンパスの最人気アイドル・結衣(ゆい)は、俺のことが好きでたまらない』
確定ボタンを押した瞬間、スマートフォンの画面が淡く発光し、周囲の空間が微かに歪んだ。
直後、遠くから駆け寄ってくる足音が響いた。そこにいたのは、学内中の男性の憧れの的であり、モデルとしても活動する結衣だった。
「葵くん! 探したよ! 一緒に次の講義受けようって約束したでしょ?」
普段なら挨拶すら交わせないはずの結衣が、頬を赤らめ、親しげに葵の腕を両手で抱きしめてきたのだ。服越しに伝わる彼女の温かな体温と柔らかい気配。アプリの画面を見ると、『設定適用完了:現実改変率100%』の文字が表示されていた。
第二章:増殖する好意と、作られた理想郷
アプリの恐ろしいほどの効果を実証した葵は、長年の孤独感と自尊心の飢えから、次々とキャンパス内の魅力的な女性たちの設定を書き換えていった。
スポーツ科学科のトップアスリートで、凛とした格好良さを持つクールな先輩・凛花(りんか)。
『凛花先輩は、俺の健気な姿に心を奪われ、甲斐甲斐しく世話を焼きたくてたまらない』
医学部のアシスタント研究員で、知的なメガネと包容力で絶大な人気を誇る香織(かおり)。
『香織さんは、俺の疲れた心を癒やすことに至上の喜びを感じている』
改変は瞬時に現実に反映された。
昼休みの学食では、結衣が「葵くん、あーんして!」と笑顔で手作りのお弁当を差し出し、反対側からは凛花が「葵、体調管理は僕の役目だ。この特製ドリンクを飲みなさい」と腕を組んで迫ってくる。さらに夕方の研究室では、香織が「葵くん、今日も頑張ったわね。私の膝で休んでいいのよ」と優しく髪を撫でてくれる。
かつて誰からも振り向かれなかった葵の周りは、あっという間に学内屈指の美女たちに囲まれた「ハーレム学園」へと姿を変えた。
葵は最初、自分が世界の中心になったかのような多幸感に酔いしれていた。
第三章:作られた愛の歪みと、膨らむ虚無感
しかし、時間が経つにつれて、葵の胸の中に不気味な違和感と空虚感が芽生え始めた。
どれほど素晴らしい言葉をかけられても、どんなに甘いスキンシップを交わされても、それらはすべて自分がアプリに入力した「プログラミングされた設定」に過ぎない。
ある雨の日の夕方、空き教室で結衣と二人きりになった際、葵はふと尋ねた。
「結衣……君は、僕のどこが好きなんんだ?」
結衣は一瞬、機械がフリーズしたかのように目を丸くし、やがて作られたような完璧な笑顔で答えた。
「え……? どこって……葵くんだから好きに決まってるじゃない! 理由なんて……理由なんて、考えたこともなかったな」
その答えを聞いた瞬間、葵の胸に冷たい風が吹き抜けた。
彼女たちの瞳に映っているのは「本当の葵」ではなく、アプリによって強制された「偽りの好意」だったのだ。どれだけ美女たちに囲まれても、心の奥底にある本当の孤独は一向に埋まらなかった。
自分がやっていることは、相手の意志を無視した身勝手なエゴではないか。本当の信頼や愛情とは、傷つき、悩み、互いを知り合っていくプロセスの中にしか存在しないのではないか。
罪悪感と自己嫌悪に押し潰されそうになった葵は、雨が打ちつける屋上で、スマートフォンを強く握りしめた。
第四章:ボタンの消去と、本当の歩み
屋上へ駆けつけてきた結衣、凛花、香織の三人。彼女たちは雨に濡れながら、心配そうに葵を見つめていた。
「葵くん、どうしたの? 風邪ひいちゃうよ」
「葵、僕たちに何か隠し事かい? 何でも言ってくれ」
「葵くん、あなたの苦しみを取り除いてあげたいの」
アプリの力で自分を無条件に愛するように設定された三人。しかし、その瞳の裏側にあるはずの、彼女たち自身の本当の輝きを奪っていたのは他ならぬ自分だった。
葵は涙を流しながら、静かに首を横に振った。
「みんな、ごめん……。僕は、ズルをしてたんだ。君たちの本当の気持ちを無視して……最低なことをしてた」
葵はスマートフォンの画面を開き、アプリのアンインストールボタン、そして『すべての改変をリセットする』という初期化コマンドを力強くタップした。
光の粒子が弾け、空間の歪みが収まっていく。
次の瞬間、結衣たちはハッと正気に戻ったように首をかしげ、自分たちがなぜ雨の屋上にいて、なぜ葵を囲んでいるのか分からないといった表情を浮かべた。
「あれ……? 私、なんでここに……?」
「私としたことが……記憶が少し混乱しているな」
改変はすべて解除され、彼女たちの中の「強制された愛」は消えてなくなった。
しかし、葵の心は不思議と晴れやかだった。彼は濡れた服を拭い、三人に向かって深く頭を下げた。
「みんな、急に呼び出すようなことになってごめん。……僕は、総合政策学部の葵って言います。もしよかったら、これから本当の友達として、僕と一から知り合ってくれませんか?」
飾らない、等身大の葵の言葉。
結衣、凛花、香織の三人は顔を見合わせ、やがてアプリの強制力などではない、彼女たち自身の意志による温かな微笑みを浮かべた。
「ふふっ、不思議な人ね。いいわよ、葵くん。カフェで温かいものでも飲みながら、お話ししましょう」
アプリで作られた偽りのハーレムを自らの手で破棄し、泥臭くも誠実な「本当の関係」を選び取った青年。雨上がりのキャンパスに眩しい虹が架かる中、一歩ずつ歩みを進める彼らの新しい物語が、いま静かに始まりを告げるのだった。
『現実改変アプリでハーレム学園を作ろう!』
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