『震える夜に…〜一花が後輩クズ男に体を許した理由〜中編』
第一章:完璧な先輩と、不誠実な後輩
都内の老舗出版社で文芸誌の編集者として働く一花(いちか)は、周囲から「仕事に厳しく隙のない完璧な先輩」として一目置かれていた。彼女は自身の感情を完璧にコントロールし、どれほど過酷な原稿チェックやトラブルに見舞われても、毅然とした態度で乗り切ってきた。
しかし、そんな彼女の日常に入り込んできたのが、半年前に配属されてきた後輩社員の蓮(れん)だった。
蓮はいわゆる「クズ男」だった。仕事の要領は良いものの身が入らず、約束の時間を破ることは日常茶飯事。社内の女性たちと浮名を引き流し、甘い言葉でその場を乗り切るような怠惰で不誠実な人物だった。
一花はそんな蓮の態度を幾度となく叱責し、正そうとしていた。しかし、蓮は一花の厳しい言葉を右から左へ受け流し、どこかバカにしたような薄笑いを浮かべながら「一花先輩って、本当に真面目ですよね」とからかうのだった。
一花にとって蓮は、反面教師にすべき「絶対に相容れない存在」であったはずだった。
第二章:孤独な嵐の夜と、突然の来訪者
一花が長年築き上げてきた「完璧な自分」が根底から崩れ去る事件が起きたのは、季節外れの大型台風が街を襲ったある秋の夜だった。
一花が担当していた大物作家の連載企画が突然の白紙撤回となり、社内での責任を全て一花ひとりが背負わされる形となったのだ。同僚たちは保身に走り、誰一人として一花をかばおうとはしなかった。
疲弊しきった身体を引きずり、誰もいない自室のアパートへ帰宅した一花。外では激しい暴風雨が窓ガラスを打ち鳴らし、落雷によって室内は一瞬にして漆黒の停電に包まれた。
仕事での深い挫折感、信じていた同僚からの裏切り、そして暗闇と嵐の恐怖。
「私……何のために頑張ってきたんだろう……」
暗闇の中で膝を抱え、ガタガタと体を震わせる一花。これまで溜め込んできた孤独と絶望が一気に溢れ出し、彼女は声もなく涙を流していた。
その時、激しい雨音を突き破って、部屋のドアが激しく叩かれた。
「一花先輩! いますよね!? 開けてください!」
ドアの向こうから聞こえたのは、濡れねずみになった蓮の声だった。
第三章:あたたかな温もりと、崩れた防波堤
驚いてドアを開けると、そこには全身から水滴を滴らせ、息を切らせた蓮が立っていた。
「蓮……? どうして……」
「停電したってニュースで見て……先輩、停電とか暗いとこダメだっただろ? 居ても立ってもいられなくなって飛んできたんだよ」
普段のだらしない態度からは想像もつかない、真剣で切迫した眼差し。蓮は一花が震えていることに気づくと、濡れたジャケットを脱ぎ捨て、迷わず一花の華奢な身体を力強く抱きしめた。
「凄く寒かったろ……ごめんな、遅くなって」
蓮の体温が一花の冷え切った肌にダイレクトに伝わってくる。服越しに伝わる力強い鼓動と、少し乱れた息遣い。
いつもは不誠実でいい加減な蓮が見せた、圧倒的な熱量と自分に対する執着。完璧な先輩として誰にも弱みを見せられず、孤独に耐え続けてきた一花の心の中で、強固だった防波堤が音を立てて崩れ去った。
「蓮……お願い……側にいて……一人にしないで……!」
一花は蓮の胸元に顔を埋め、彼のシャツをギュッと強く掴み返した。
一花が不誠実な後輩である蓮に心を預け、すべてを許した理由。それは、彼が「クズ男」だからでも、その場の雰囲気に流されたからでもなかった。世界中から取り残されたような暗闇と恐怖の中で、自分の弱さを唯一見つけ出し、すべてを捨てて駆けつけてくれたのが、他ならぬ彼だったからだ。
第四章:本当の素顔と、新しく始まる未来
暴風雨が去り、窓の外から澄み切った朝日が差し込んできた。
停電が復旧した静かな部屋で、ふたりは固く手を握り合っていた。
蓮は一花の涙を指先で優しく拭うと、照れくさそうに頭を掻いた。そこにはもう、不真面目でチャラチャラとした「クズ男」の面影はなかった。
「一花先輩……俺、今までずっと適当に生きてきたけど、先輩の真面目なところ、不器用なところ……ずっと尊敬してたし、好きだったんだ。これからは、俺が先輩を支えるから」
不器用だけれど真っ直ぐな、蓮の本音の告白。一花は溢れ出る愛おしさに胸を熱くし、蓮の手を握り返した。
「私を……見つけてくれてありがとう、蓮」
完璧な先輩という仮面を脱ぎ捨て、一人の女性として歩み出すこと。
震える嵐の夜を越えたふたりは、お互いの傷を埋め合わせるように深く見つめ合い、新しい愛の物語を歩み始めるのだった。
『震える夜に…〜一花が後輩クズ男に体を許した理由〜中編』
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