『変態黒髪ちゃんと生涯モブの僕3』
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26歳。職業は小さなデザイン事務所の雑用係。顔もスペックも完全に背景レベルで、人生の主役になる気なんて最初からゼロだった。
そんな俺の唯一の自慢(?)は、付き合って四年になる彼女・黒瀬ひかりちゃんが、世間一般から見たら「めっちゃヤバい変態」ってことだ。
ひかりちゃん、28歳。黒髪ロングの超絶美人。表の顔は有名企業の受付嬢で、笑顔が完璧すぎて取引先のおっさんたちが毎回鼻の下伸ばしてる。でもその実態は……まあ、タイトル通りだ。
俺と二人きりになると、急にスイッチ入って「モブくん、今日も私を背景扱いして無視して過ごして♡」とか言い出す。無視されると興奮するらしい。マジで意味不明。でも可愛いから許す。
一巻、二巻で色々あったよな……
同僚にひかりちゃんの秘密バレそうになったり、俺の元カノ(というか中学時代に一方的に好きだった子)が突然現れて修羅場ったり。でも結局、ひかりちゃんの「モブくん以外じゃダメなの」攻撃に毎回やられて、俺は生涯モブのままでいいやって覚悟決めた。
で、三巻目。
今回は、ついに同棲を始めたんだよ。俺のボロアパートにひかりちゃんが転がり込んできて。
「モブくんの生活に溶け込んで、完全に存在感ゼロの彼女になる練習!」とか言いながら、朝から俺のシャツ着てキッチンに立ってる。俺が「コーヒー淹れて」って言っても「はい♡」って笑顔で淹れてくれるのに、俺が「ありがとう」って言おうとすると「だめ、無視して! 私、家具だから!」って本気で拗ねる。
もうわけわからん。でもそのシャツの隙間から見える鎖骨とか、首筋にかかった黒髪とか、見てるだけで頭おかしくなるから、文句言えない。
そんな甘々(?)な同棲生活が始まった矢先、最大の危機が来た。
ひかりちゃんの妹・黒瀬あかり(24歳)が、突然上京してきたんだ。
あかりちゃんは姉とは正反対のキャラで、超真面目で常識人。姉の「変態っぷり」を昔から知ってて、めっちゃ嫌ってるタイプ。
「姉ちゃん、また変な男に引っかかってないよね?」って俺の部屋に乗り込んできて、開口一番「あなたが例のモブさん?」って冷たい目で見られた。
俺、完全にビビった。だってあかりちゃん、姉ちゃん以上に美人なんだもん。姉妹でこんなに顔面強いって反則だろ。
それから地獄の三週間が始まった。
あかりちゃん、姉ちゃんを「更生させる」って言い出して、うちに居座り始めたんだ。
ひかりちゃんの「変態行動」を全部監視して、「姉ちゃん! 普通に彼氏とイチャイチャすればいいでしょ!」って怒鳴る。
でもひかりちゃんは「あかりにはわからないの! モブくんが私を空気扱いしてくれる瞬間が一番幸せなんだから!」って反論。
俺? 俺はただのモブだから、姉妹喧嘩に巻き込まれて右往左往してるだけ。
ある夜、とうとう爆発した。
ひかりちゃんが「あかりには絶対わからない! 私、モブくんに必要とされてないって実感するたびに、胸がきゅうってなるの!」って泣き出したんだ。
俺、初めて見た。ひかりちゃんが本気で泣くの。
いつも笑顔で「無視して♡」って言ってる子が、肩震わせて泣いてる。
それ見て、なんか……俺の中でずっと「モブでいいや」って思ってた部分が、ガラガラ崩れた。
だから、初めて言ったんだ。
「ひかり、俺、お前がいないと生きていけないよ」
……って。
静まり返った部屋。
ひかりちゃん、目を真ん丸にして俺を見てる。
あかりちゃんもポカンとしてる。
そしたらひかりちゃん、急に顔真っ赤にして「うそ……モブくん、今、私のことちゃんと見てくれた……///」って倒れそうになった。
マジで倒れた。気絶した。興奮しすぎて。
その後、あかりちゃんに「あなた……意外とまともじゃないの」って渋々認められて、なんとか同棲継続許可は出た。
でもひかりちゃんは、あの日以来ちょっと変わった。
相変わらず「無視して♡」は言うけど、時々俺の服の裾掴んで「でも、たまには……私を見てくれる?」って小声で言うようになった。
俺は相変わらずモブだけど、
この先も、ひかりちゃんの変態っぷりに振り回されながら、
ちょっとずつ「主役」っぽいこと、してみようかなって思ってる。
……って、こんな俺でもいいなら、一生そばにいてくれよな。
黒髪の変態ちゃん。

