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【新刊】「エースノサイミン 〜episode.01〜」こちょこちょ●●

「エースノサイミン 〜episode.01〜」

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エースノサイミン 〜episode.01〜

彼女の名前は佐藤美咲。二十五歳の今でも、昔の仲間から「エース」って呼ばれてる。あの頃は本当に輝いてたんだよな。大学を卒業してすぐプロのバレーボールチームに入団して、リーグの新人王取っちゃったくらい。サーブの威力はチーム一で、相手のブロックをぶち抜くスパイクは、観客を沸かせること請け合いだった。身長は百七十二センチ、筋肉質だけど女性らしいラインを保ってる体。練習後の汗が、ユニフォームに染みて光る姿は、ファンも多かった。

でも、そんな日々が突然終わった。試合中の着地で膝を痛めて、靭帯断裂。医者からは「完治まで一年はかかる」って言われて、チームも待ってくれなかった。二十三歳の若さで引退を決意したんだ。悔しかったよ。コートに立てない自分が、鏡を見るたび嫌になった。リハビリに明け暮れる毎日、夜は一人で泣いたりして。

そんな時、支えてくれたのが彼、夫の拓也だった。同じチームのトレーナーで、怪我のケアから何から全部見てくれた人。二十八歳の優しい男で、いつも笑顔が絶えない。美咲の引退が決まった夜、二人で居酒屋に行って、ビール飲みながら話したんだ。「もうバレーは終わりかな」って呟いたら、拓也が「美咲の人生はバレーだけじゃないよ」って。そっから自然と付き合い始めて、半年後にはプロポーズ。結婚式は小さいけど、仲間たちが集まってくれて、幸せのピークだった。膝の痛みもだいぶ引いて、普通の生活に戻れた。

結婚してから二年。美咲はパートタイムでスポーツジムのインストラクターやってた。体を動かすのが好きだから、辞められなかったんだ。そしたら、ある日昔の監督から連絡が来た。「チームがピンチだ。エースがいないと勝てない。復帰してくれないか」って。最初は迷ったよ。膝の不安もあるし、拓也との穏やかな暮らしを壊したくない。でも、心のどこかでコートが恋しかった。スパイクを打つ感触、チームメイトの声、観客の歓声。あの興奮が、忘れられなかった。

拓也に相談したら、「行っておいで。俺が支えるよ」って。優しいよな、あいつ。復帰を決めて、チームの練習に顔を出した日、みんなが拍手で迎えてくれた。二十五歳の復帰選手なんて珍しいけど、美咲のプレーは錆びついてなかった。軽くスパイク打ったら、監督が目を輝かせて「やっぱりエースだ」って。練習メニューも徐々に増やして、膝の調子を見ながら。家に帰ると拓也がマッサージしてくれるし、夕飯作って待ってる。幸せすぎて、夢みたいだった。

チームのコーチは新しくなってた。名前は高橋、四十歳くらいの男。昔から厳しいことで有名で、選手の体調管理にはうるさい。美咲の復帰を歓迎してくれたけど、なんか視線が違うんだよな。練習中、フォームチェックって言いながら、体に触れる手が長すぎる。最初は気のせいかと思った。膝のテーピング巻く時も、指が太ももを這うように動く。美咲は「コーチ、ちょっと」って言ったけど、「リハビリのためだよ」って笑うだけ。

ある日の練習後、みんなが帰ったロッカールーム。美咲は一人でストレッチしてた。膝が少し痛むから、丁寧にほぐさないと。そしたら高橋コーチが入ってきて、「美咲、ちょっと話がある」って。ドアを閉めて、鍵かけた音がした。心臓がドキッとしたよ。「復帰おめでとう。でも、体がまだ本調子じゃないだろ。特別なトレーニングが必要だ」って。特別な、って何? コーチの目が、いつもより熱っぽい。

コーチはポケットから小さな瓶を取り出した。中に白い粉が入ってる。「これ、飲め。疲労回復に効くサプリだ。俺が特別に用意した」って。美咲は怪訝に思ったけど、コーチの威圧感に負けて、一口飲んだ。味は少し甘くて、変な後味。そしたら急に体が熱くなって、頭がぼんやりする。「コーチ、これ……」って声が出たけど、力が抜けていく。コーチの顔が近づいてきて、「いい子だ、美咲。俺の言う通りにすれば、もっと強くなれるよ」って囁く。

視界が揺れて、意識が遠のく。コーチの手が、美咲の肩に触れる。優しく、でも確実に。膝の痛みなんか忘れて、体が言うことを聞かなくなる。コーチの声が耳に響く。「リラックスして。俺が導いてやる」って。美咲の心の中で、何かが警鐘を鳴らしてるのに、体は動かない。幸せだったはずの復帰が、こんな闇に飲み込まれていくなんて。

翌朝、目覚めたら自宅のベッド。拓也が心配そうに「昨日、コーチに送ってもらったんだって? 大丈夫?」って。美咲は記憶が曖昧で、夢みたいだった。でも、体に残る違和感。コーチからメールが来てた。「今日の練習、楽しみにしてるよ。秘密は守るから」って。美咲は震えた。復帰の喜びが、コーチの影に覆われていく。チームのエースとして輝くはずが、魔の手が忍び寄る。拓也に相談したいけど、言えない。コーチの瓶の残りが、引き出しに隠してある。次はどんな「トレーニング」が待ってるんだろう。

練習が再開して、コーチの視線はますます執拗。スパイクのフォーム直すって、腰に手を回す。みんなの前なのに、指先が肌をなぞる。美咲は耐えるしかない。膝の調子はいいのに、心がざわつく。夜、拓也と抱き合っても、コーチの声が頭に残る。「俺のものになれ」って。あの粉の効果が、徐々に体を蝕んでいくみたい。復帰して一ヶ月、チームは連勝中。美咲のスパイクが決まるたび、歓声が上がる。でも、控え室でコーチが待ってる。瓶を差し出して、「飲め」って。

美咲の抵抗は弱まる。体が熱くなって、コーチの手に委ねる。詳細は思い出せないけど、朝になると疲労感だけ残る。拓也は気づかないふり? いや、信じてるんだろう。幸せな結婚生活が、崩れ始める。コーチの魔の手は、ますます深く。エースのプライドが、砕け散る日が近いかも。