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「割のいいバイトなんて存在しない」

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「ねえ、みてよ! このバイト、時給2万円だって! めっちゃすごくない!?」

大学の講義を終え、カフェで友達とくつろいでいた彩花(あやか)は、スマホの画面を興奮気味に見つめていた。彼女は19歳の大学生で、ファッションとカフェ巡りが大好きな明るい性格だ。しかし、ついつい衝動買いしてしまう癖があり、いつも金欠状態。財布の中身は心もとなく、バイトのシフトを増やしても追いつかない日々が続いていた。

「いや、ちょっと待って。時給2万円って、普通に考えて怪しすぎるよ。絶対まともな仕事じゃないって!」

隣に座っていた親友の美咲が、コーヒーを飲みながら眉をひそめた。美咲は慎重派で、彩花の突飛な行動をいつも心配している。彼女の言葉に、彩花は一瞬考え込んだが、頭に浮かぶのは来月やってくる彼氏の誕生日。ずっと欲しがっていた高級な腕時計をプレゼントしたいという思いが、彼女の心を強く揺さぶっていた。「でもさ、誕生日プレゼント買うためにはどうしてもお金が必要なの! ちょっとくらい怪しくても、話を聞いてみるだけならいいよね?」

美咲の忠告を軽く流し、彩花は勢いで応募フォームに必要事項を入力し、送信ボタンを押してしまった。

数日後、彩花は指定されたオフィスに向かった。繁華街から少し離れたビルの一室。看板もなく、簡素なドアに小さく社名が書かれただけの場所に、彼女は少し緊張しながら足を踏み入れた。「話を聞くだけ、話を聞くだけ」と自分に言い聞かせながら、受付で名前を告げる。オフィスの中は意外にも清潔で、若い女性スタッフが笑顔で対応してくれた。「ご応募ありがとうございます! こちらで簡単な説明をさせていただきますね」と、スタッフはパンフレットを手に話し始めた。

驚くことに、提示された時給は広告の2万円を上回る2万5千円。「こんな条件、滅多にないですよ。短時間で効率よく稼げるお仕事です」とスタッフは流暢に説明する。仕事内容は「イベントのPRスタッフ」とだけ伝えられ、詳細は「実際に働いてみないとわからない部分もある」と曖昧だった。彩花の頭の中はお金のことでいっぱいだった。腕時計の値段、ディナーの予約、プレゼントを渡したときの彼氏の笑顔――そんなイメージが次々と浮かび、冷静な判断を鈍らせた。「まぁ、PRなら接客みたいなものよね。カフェのバイトとそんなに変わらないはず」と思い込み、彼女は深く考えずに同意書にサインしてしまった。

勤務初日、彩花は指示された場所へ向かった。そこは都心の雑居ビルにある小さなイベント会場だった。期待と不安が入り混じる中、会場に足を踏み入れると、異様な雰囲気が漂っていた。薄暗い照明の下、派手なスーツに身を包んだ中年男性たちが集まり、彼女を見る目がどこか不自然だった。「いらっしゃい! 君が新しい子だね!」と、ひとりの男性がニヤニヤしながら近づいてきた。彩花の胸に嫌な予感が走る。スタッフから渡された衣装は、露出の多い派手なドレス。「これ、着るんですか…?」と戸惑いながらも、時給の高さに後押しされ、渋々着替えた。

イベントが始まると、男性たちは彼女に過度に近づき、馴れ馴れしく話しかけてきた。仕事内容は「PR」とは名ばかりで、ただ男性たちと会話したり、飲み物を運んだりするだけ。次第に彼らの態度は図々しくなり、彩花は居心地の悪さに耐えきれなくなった。「やっぱり美咲の言う通りだった…」と後悔が押し寄せるが、すでに同意書にサインしてしまった後だった。彼女は心の中で必死に自分を奮い立たせ、「今日だけ、今日だけ耐えれば…」と繰り返した。

その夜、彩花は美咲に電話をかけた。「ごめん、ほんとバカだった…。もう二度とこんなバイトしない」と泣きながら話した。美咲は静かに耳を傾け、「次からはちゃんと相談してね」と優しく諭した。彩花は高時給の誘惑に負けた自分を反省しつつ、彼氏へのプレゼントは地道に貯めたお金で買うことを心に決めたのだった。