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▶【新刊】「あのとき振ってしまった元陰キャの女友達が裏垢配信者になった理由。」しらすどん

「あのとき振ってしまった元陰キャの女友達が裏垢配信者になった理由。」

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大学二年の冬、冷たい風が頬を刺す12月の夕暮れ。私は、上野夢葉、18歳。薄暗いキャンパスの並木道を歩きながら、胸に突き刺さる痛みを抱えていた。あの瞬間から数時間しか経っていないのに、まるで永遠に引きずりそうな記憶――好きな人に告白し、振られたこと。

「ごめん、夢葉。気持ちは嬉しいけど、俺には他に好きな人がいるんだ。」

彼の言葉は優しかった。でも、その優しさが余計に心を抉った。名前は悠斗。同じサークルで、いつも笑顔でみんなを引っ張るリーダー的存在だ。私とは正反対の、眩しいくらいの明るさを持った人。対して私は、目立つのが苦手で、いつも本の陰に隠れているようなタイプ。地味で、自信なんてまるでなかった。

「もっと私が可愛かったら…。もっと自分に自信があったら、結果は違ったのかな…。」

家に帰り、鏡の前に立つ。そこに映るのは、眼鏡をかけた平凡な顔。自分を変えたい――その思いが、胸の奥で燃え始めた。卑屈な自分を脱ぎ捨てて、もっと輝く自分になりたい。悠斗の心を動かせなかった私でも、変わることで何か新しい可能性を見つけられるかもしれない。

それから、私は自分を変えるための努力を始めた。まずは外見から。メイクを研究し、SNSで流行のファッションをチェックし、似合う服を少しずつ揃えた。鏡の前で何度もメイクを練習し、失敗しては笑い、笑ってはまた挑戦した。自分を変えるのは、思ったより楽しかった。新しい自分に出会うたびに、少しずつ自信が芽生えていくのを感じた。

でも、変わるのは外見だけじゃなかった。内面も磨きたかった。私は、大学で演劇サークルに入ってみることにした。人前で話すなんて、昔の私には考えられない選択だ。でも、舞台の上で役になりきることで、殻を破れる気がした。最初は声が震え、台詞を忘れて赤面することもあったけど、仲間たちと過ごす時間は楽しくて、私の心を少しずつ軽くしてくれた。

そんなある日、SNSで「裏垢」という言葉を知った。普段の自分とは違う、もう一つの自分を表現する場所。興味本位で、私も裏垢を作ってみた。そこでは、普段の私では言えない本音や、試してみたいメイク、ファッションを自由に投稿した。誰かに見られるかもしれない緊張感と、でも誰にもバレない安心感。そのバランスが、なんだか心地よかった。

裏垢での投稿が少しずつ増えるにつれ、フォロワーも増えていった。コメントで「かわいい!」「このメイク最高!」と褒められるたびに、心が温かくなった。現実の私はまだ自信が持てない日も多いけど、裏垢の私はどこか大胆で、自由で、輝いている気がした。そして、ある日、思い切ってライブ配信をしてみた。画面の向こうの見知らぬ人たちと話すのは、演劇の舞台に立つようなドキドキ感があった。でも、そこで得られる「いいね」や応援の言葉は、私の心を満たしてくれた。

なぜ私が裏垢配信者になったのか。それは、振られたあの冬の日から始まった自分を変える旅の、一つの到達点だった。あのときの私は、ただの地味な女の子だった。でも、変わりたいと願ったから、今の私がいる。裏垢の私は、理想の自分に近づくための実験場であり、自信を取り戻すための居場所。悠斗に振られたことが、私をここまで連れてきてくれたのだ。

この物語は、前作「あのとき振ってしまった元陰キャの女友達が裏垢配信者になっていた。」の前日譚。ヒロイン・上野夢葉が、どんな想いを抱き、どんな一歩を踏み出してきたのか。その心の軌跡を、彼女自身の視点で綴る。