『非モテの僕にこんな誘い断れるはずがない 3』




『非モテの僕にこんな誘い断れるはずがない 3』
第一章:冴えない日々を切り裂く、一通のメッセージ
中堅の不動産会社で事務職として働く和樹(かずき)は、己の恋愛遍歴において誇れるものを何一つ持っていなかった。控えめで地味な性格、おしゃれとは程遠いファッション、そして会話下手。周囲からは「良い人」で終わる典型的なタイプとして扱われ、これまで女性と二人きりでデートをした経験すら数えるほどしかない。自他ともに認める、筋金入りの「非モテ」人生を歩んでいた。
そんな和樹の灰色だった日常が激変したのは、金曜日の夜のことだった。
仕事終わり、一人で寂しく自宅のアパートでインスタントラーメンをすすっていた和樹のスマートフォンが、けたたましく通知音を鳴らした。画面に表示された送り主の名前を見て、和樹は持っていた箸を思わず床に落としそうになった。
メッセージの送り主は、社内で「高嶺の花」と噂される企画部の大人気社員・絢乃(あやの)だった。
絢乃は洗練されたスタイルと誰もが振り返る美貌を持ち、明るく気さくな性格から男女問わず絶大な人気を誇る存在だ。和樹とは部署が異なり、たまに書類の受け渡しで言葉を交わす程度の接点しかなかったはずだ。
おそるおそるメッセージを開いた和樹の目に飛び込んできたのは、あまりにも信じがたい内容だった。
『和樹さん、突然ごめんなさい! 今週末、私の実家がある海辺の別荘に一泊で遊びに来ませんか? 二人きりで、ゆっくりお話ししたいんです』
(……え? 詐欺か何かか? それとも、新手のドッキリ……?)
頭の中が真っ白になり、冷や汗が吹き出す和樹。しかし、メッセージの末尾には照れたような表情の自撮り写真と『ずっと和樹さんと二人になりたかったんです』という追記が添えられていた。
非モテの自分に訪れた、一生に一度あるかないかの奇跡のようなチャンス。裏があるのではないかという恐怖と疑惑が脳裏をよぎるものの、絢乃のような魅力的な女性からの甘い誘いを、断れるはずがなかった。
「……行くしかないだろ、こんなの!」
和樹は震える指先で承諾の返信を送り、急いでクローゼットを開けて服を探し始めるのだった。
第二章:潮風の別荘と、想定外の距離感
週末、和樹は緊張で胃を痛めながら、指定された海辺の駅へと降り立った。改札を出ると、白いワンピースに身を包んだ絢乃が、ひまわりのような笑顔で手を振っていた。
「和樹さん! 来てくれてすごく嬉しいです!」
普段のオフィスでのフォーマルな装いとは違う、ナチュラルで華やかな彼女の私服姿に、和樹の鼓動は早鐘のように打ち鳴らされる。彼女の運転する車に乗り込み、辿り着いたのは海を見下ろす丘の上に立つ、静かで豪奢な別荘だった。
波の音が心地よく響く空間で、二人はテラスに出てバーベキューを楽しんだ。美味しい料理とワインが運ばれてくる中、和樹は「なぜ自分が選ばれたのか」という疑問を払拭できずにいた。
「あの、絢乃さん……どうして僕なんかを誘ってくれたんですか? 社内にはもっとかっこよくて、絢乃さんに似合う男性がたくさんいるのに……」
意を決して尋ねた和樹に対し、絢乃はグラスを置き、どこか愛おしそうな眼差しで和樹をじっと見つめ返した。
「『僕なんか』なんて言わないでください。私、ずっと和樹さんのことを見てたんですよ?」
「え……?」
「半年前、雨の日に会社の裏で捨て猫を保護しようとして、一人でびしょ濡れになりながら優しく声をかけていた和樹さんを見かけたんです。自分のことより誰かを思いやれる、その温かい人柄に……ずっと惹かれていました」
思いもよらない告白に、和樹は息をのんだ。自分では誰も見ていないと思っていた日常の場面を、彼女はずっと見つめていてくれたのだ。
「私、社内では『高嶺の花』なんて言われて遠巻きにされることが多くて……本当の私を見てくれる人に、ずっと出会いたかったんです」
そう言って照れくさそうに微笑む絢乃の頬は、夕陽の赤さと相まってポッと桃色に染まっていた。
第三章:波音の夜と、溢れ出す本音
夜が更けると、海風が冷たさを増し、満天の星空が広がった。
別荘の広いリビングで、二人はソファーに並んで腰掛け、温かいホットチョコレートを飲んでいた。静かな部屋には、暖炉の薪がはぜる音と、二人の呼吸音だけが響いている。
「和樹さん、少し寒いです……」
そう言うと、絢乃はそっと和樹の腕に寄り添い、自身の頭を和樹の肩へと預けてきた。ふわりと漂うフローラルの甘い香水と、服越しに伝わる彼女の柔らかく温かな体温。至近距離から伝わる熱量に、和樹の全身の血が激しく巡り始める。
「あ、絢乃さん……!?」
「嫌ですか……? 私、厚かましいかな……」
不安そうに上目遣いで見つめてくる絢乃の潤んだ瞳。普段の完璧な「高嶺の花」の姿からは想像もつかない、可憐で無防備な一人の女性の素顔がそこにあった。
非モテとして生きてきた和樹の頭の中で、理性の警報が鳴り響く。「調子に乗るな」「自分には勿体なさすぎる」と声がする。しかし、目の前で自分の温もりを求めて震えている彼女を前にして、退き下がるわけにはいかなかった。
和樹は意を決してカップをテーブルに置くと、勇気を振り絞って絢乃の華奢な肩を包み込み、引き寄せるように強く抱きしめた。
「嫌なわけないです……! むしろ、夢じゃないかって……怖いくらいです」
「和樹さん……!」
和樹の胸元に顔をうずめ、安堵したように小さな吐息を漏らす絢乃。二人の鼓動が重なり合い、部屋の温度がぐんぐんと上がっていくのが分かった。
第四章:解けた警戒心と、ふたりだけの朝
「私、和樹さんの前だと、本当の自分でいられるんです。強がらなくていいし、無理に笑わなくてもいい……」
絢乃は和樹のシャツの胸元をぎゅっと掴みながら、胸の奥に溜め込んでいた本音をポロポロとこぼした。完璧な女性として扱われることへの孤独、周囲からの期待に押しつぶされそうになっていた日々。和樹は彼女の背中を優しくさすりながら、その言葉一つひとつを丁寧に受け止めた。
「これからは、僕がずっと絢乃さんの味方になります。カッコ悪いところも、全部僕に見せてください」
耳元で紡がれた和樹の真摯な誓いに、絢乃は涙を浮かべながら幸せそうに微笑んだ。
「はい……! これからはずっと、和樹さんの隣にいさせてください」
ふたりは互いの体温を確かめ合うように深く抱き合い、夜が明けるまで静かに想いを語り合った。
翌朝、眩しい太陽の光がリビングに差し込む中、目を覚ました和樹の隣には、穏やかな寝顔で自分に抱きついて眠る絢乃の姿があった。
「非モテの俺」という劣等感から始まった一泊旅行。しかし、そこで得たものは単なるラッキーな誘いなどではなく、互いの孤独を埋め合い、心から深く結ばれた本物の愛だった。
窓の外に広がる澄み渡った海のように、二人の新しい日常は、輝かしく甘い光に満ちあふれて始まろうとしていたのだった。
『非モテの僕にこんな誘い断れるはずがない 3』
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