西日が、街を茜色に染めていた。古いアパートの窓から、私は街を見下ろす。通りの木々は、緑から黄色、赤へと色を変え、まるで燃え盛る炎のようだった。
秋の夕暮れは、一年の中で最も好きな時間だ。子供の頃から、この静寂と美しさに心を奪われてきた。夕焼け空を見上げながら、私はいつも何かしらの感情に突き動かされていた。喜び、悲しみ、希望、そして絶望。
今日は特に、心がざわついている。最近、仕事が忙しく、なかなか自分の時間を取れていない。疲れた体を引きずって帰宅し、ただベッドに横になるだけの毎日が続いている。そんな中、ふと窓の外を見ると、美しい夕焼けが広がっていた。
私は、部屋から出て、ベランダに出た。冷たい風が頬を撫でる。深呼吸をして、夕焼け空を見上げる。茜色の空には、幾筋もの雲が浮かび、それが刻々と形を変えていく。まるで、生きているようだ。
子供の頃、私はよく祖母の家で過ごした。祖母の家には、大きな庭があり、秋になると、庭いっぱいにコスモスが咲いた。祖母と一緒に、コスモス畑を散歩するのが大好きだった。コスモスの花は、風に揺られながら、まるで私に向かって話しかけているように感じた。
「どうしたの?」
突然、後ろから声が聞こえた。振り向くと、隣に住んでいる老婦人が立っていた。彼女は、いつもニコニコしていて、よく私に話しかけてくれる。
「夕焼けがきれいでしょう」
私は、そう答えると、老婦人の隣に立った。
「昔はね、このあたりはもっと緑がいっぱいだったのよ」
老婦人は、物思いにふけながら、そう言った。
「このアパートも、私が若い頃に建てられたものなの。当時は、みんなが仲が良く、よく一緒に遊んだわね」
老婦りの話に、私は耳を傾けた。彼女の言葉の一つ一つが、私の心に温かい光を灯すようだった。
「今は、みんなそれぞれ忙しいから、昔みたいに集まることもなくなったわね」
老婦りは、少し寂しそうに言った。
「でも、こうやって夕焼けを見ながら話していると、昔に戻ったような気がするわ」
老婦りの言葉に、私は深く共感した。私も、昔のように誰かと心を通わせたいと思っていた。
「ねえ、あなた。何か悩みでもあるの?」
老婦人は、私の顔を見て、優しく尋ねてきた。
私は、思わず自分の気持ちを打ち明けた。仕事のこと、将来のこと、そして、今の自分の生き方について。
老婦りは、私の話を静かに聞いてくれた。そして、最後にこう言った。
「夕焼けは、毎日同じように見えるけれど、実は毎日違うものなの。今日の夕焼けは、きっとあなただけの夕焼けよ」
老婦りの言葉は、私の心に深く突き刺さった。私は、今まで当たり前のように見ていた夕焼けが、実は私だけの特別なものであることに気づかされた。
夕焼け空を見上げながら、私は自分の心を静かに見つめた。そして、これからどう生きていきたいのか、改めて考えることができた。
秋の夕暮れは、私に多くのことを教えてくれた。それは、人生の美しさ、そして、自分自身と向き合うことの大切さ。
私は、この夕焼けの記憶を胸に、明日からも一歩ずつ進んでいこうと思う。
西日が、ゆっくりと沈んでいく。茜色の空は、だんだんと暗くなっていった。