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▶【新刊】「一応、シェアハウスの管理人なんですが・・・最終話」五味滓太郎

「一応、シェアハウスの管理人なんですが・・・最終話」

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「一応、シェアハウスの管理人なんですが・・・最終話」

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都会の喧騒から少し離れた閑静な住宅街に佇むシェアハウス「アオイの杜」。ここを管理する向合碧(むかいあい・あお)は、28歳の穏やかで頼りがいのある女性だ。以前は広告代理店で働いていたが、故郷の古い一軒家をリノベーションしてシェアハウスに生まれ変わらせ、皆の居心地の良い空間を創り出すことに情熱を注いでいる。碧の毎日は、入居者たちのちょっとした相談ごとから、庭の手入れ、共有スペースの清掃まで、多忙ながらも充実したものだった。しかし、最近の悩みは空室の多さ。家賃を抑え、広々としたリビングやプライベートルームを備えた魅力的な物件なのに、なかなか新しい入居者が集まらない。

そんなある日、碧は閃いた。近隣の名門私立大学「緑丘学園」のキャンパス掲示板に、こっそり入居者募集のチラシを貼り出すことにした。大学はシェアハウスから徒歩10分ほどの好立地。学生や若い社会人が多いはずだ。チラシには、碧の温かな笑顔の写真とともに、「ゆったりした共同生活を始めませんか? 毎週のホームパーティー、無料Wi-Fi完備、女性管理人による安心サポート!」と魅力的にアピール。許可は取っていないが、「少しの無断掲載くらい、きっと許されるはず」と自分に言い聞かせ、夜のキャンパスに忍び込んだ。

翌朝、碧がシェアハウスの玄関でコーヒーを淹れていると、インターホンが鳴った。モニターに映るのは、黒髪のロングヘアをなびかせた美しい女性。20代半ばくらいだろうか、スーツ姿で凛とした佇まいだ。「あの、チラシを見て来ました。内覧をお願いできますか?」その声は柔らかく、碧の心をくすぐった。慌ててドアを開けると、そこに立っていたのは佐倉美咲(さくら・みさき)、25歳のフリーランスデザイナー。大学で建築を専攻し、卒業後すぐに独立した才媛だ。美咲は都会のワンルームで一人暮らしをしていたが、狭い部屋と孤独に疲れ、シェアハウスを探していたという。

「この家、素敵ですね。光がたっぷり入るリビング、みんなで料理できるキッチン……まるで夢のようです」美咲の瞳が輝く。碧は嬉しくて、早速シェアハウス内を案内した。1階の共有ラウンジには大きなソファと本棚、2階の個室はそれぞれテーマカラーで統一され、快適そのもの。現在入居中の3人――30歳の看護師・遥(はるか)、27歳のITエンジニア・拓也(たくや)、そして26歳のカフェ店員・玲奈(れな)――も顔を出し、美咲を迎え入れた。「一緒に夕食作ろうよ!」遥の明るい声に、美咲は頰を緩めた。

ところが、興奮の余り碧は忘れていた。チラシの無断掲載が、大学のセキュリティ担当者にバレてしまったのだ。午後、大学の職員がシェアハウスを訪れ、「掲示板の許可なく貼るのは規則違反です。撤去と注意を」と厳しく告げられた。碧は青ざめ、土下座寸前。「申し訳ありません! ただ、入居者が欲しくて……」職員はため息をつき、「まあ、被害がないので今回は見逃しますが、次は正式に申請を」と去っていった。ホッとしたのも束の間、美咲が笑顔で言った。「あのチラシのおかげでここに来れました。碧さん、ありがとう。私、入居します!」

その夜、シェアハウスは大盛り上がり。美咲の入居祝いに、皆で手作りのディナーパーティー。玲奈の特製パスタ、拓也のミックスジュース、遥のデザート、そして碧のシグネチャー・ハーブティー。テーブルを囲み、笑い声が絶えない。「これで5人家族だね。毎日が楽しくなりそう!」美咲の言葉に、皆が拍手。碧は胸が熱くなった。無断掲載のハプニングが、予想外の絆を生んだのだ。

やがて夜が更け、皆が部屋に戻る頃、美咲が碧にそっと耳打ちした。「碧さん、この家を選んでよかった。あなたみたいな管理人がいてくれて、心強いです」碧は頰を赤らめ、「これからもみんなの居場所を守るよ」と誓った。窓から見える星空の下、シェアハウス「アオイの杜」は、新たな章の幕開けを迎えた。碧の管理人生活は、これからも小さな冒険と温かな出会いに満ちていくのだろう。