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▶【新刊】「優等生と不良少女」悠木ヒロ

「優等生と不良少女」

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静かな秋の午後、写真部の部室に柔らかな陽光が差し込んでいた。主人公の秋葉空は、いつものように三脚を立ててレンズを磨いていた。2年生の彼にとって、この部室はただの居場所ではなく、特別な想いが詰まった聖域だった。そこにいるだけで、心が落ち着くのは、同じ部に所属する3年生の先輩、上野百合の存在のおかげだ。百合先輩は、今日も窓辺でフィルムをチェックしながら、穏やかな笑みを浮かべている。彼女の長い髪が風に揺れ、スタイルの良さが際立つ白いブラウス姿に、空の視線は自然と奪われてしまう。「ああ、こんな完璧な人が本当にこの世にいるなんて……」と、空は心の中でつぶやく。百合への憧れは、いつしか深い恋慕に変わっていた。部活動中、彼女がアドバイスをくれるたび、空の頰は熱くなり、シャッターを切る手が震えるほどだ。

そんなある日、部室で百合が突然、空に声をかけた。「空くん、次の写真コンテスト、参加しない? テーマは『隠された優しさ』よ。君の感性なら、きっと素敵な作品ができるわ」彼女の瞳が輝き、優しい声に包まれる。空は一瞬、言葉を失った。コンテストなど、普段なら迷わず断るはずなのに、百合の提案に心が躍る。「もし賞を取ったら、ご褒美をあげるわ。ふふ、何がいいかしら?」百合の悪戯っぽい微笑みに、空の想像は一気に膨らんだ。二人きりで街を散策するデート? それとも、部室で特別な時間を過ごす? いや、もしかしたら……。頰を赤らめながら、空は即座に決意した。「もちろんです、先輩! 絶対に頑張ります!」こうして、空のコンテスト挑戦が始まった。テーマの『隠された優しさ』をどう表現するか。頭の中はアイデアでいっぱいになり、毎日のようにカメラを手に街を歩き回るようになった。

数日後、夕暮れの公園で、空は偶然、予想外の光景に出くわした。ベンチに座る少女の姿。長い黒髪をなびかせ、制服のスカートを無造作にたくし上げたその子は、1年生の神田美月だった。この辺りの高校生なら誰もが知る不良少女。学校で教師に反抗し、街の不良たちとつるむ噂は、空の耳にも届いていた。見た目は確かに美しいのに、その強気な態度で男子は寄りつかない。空は一瞬、身を隠そうとしたが、次の瞬間、息を飲んだ。美月の膝の上に、ふわふわの野良猫が乗っているのだ。彼女は普段の鋭い表情を崩し、優しい手つきで猫の背中を撫で、耳元で甘い声で囁いている。「よしよし、今日もお腹すいてるの? ほら、ミルクあげるよ」猫はゴロゴロと喉を鳴らし、美月の頰に頭をすり寄せる。その光景は、まるで別世界。噂の不良少女が、こんなにも穏やかで愛情深い一面を見せるなんて。空の心は強く揺さぶられた。「これだ……! コンテストのテーマにぴったり。隠された優しさそのものじゃないか!」

興奮冷めやらぬまま、空はカメラを構え、美月に近づいた。「あの、神田さん! 君を撮らせてくれないかな? コンテストのためなんだ。本当に、君のその姿が完璧で……」美月は猫を抱いたまま、怪訝な顔で空を睨む。「は? 誰よあんた。写真? ふざけんなよ、撮るなっての」空は必死に説得した。何度も部室まで押しかけ、コンテストの意義を説明し、百合先輩の名前を出して信頼を訴える。「お願いだよ! 君の優しいところ、絶対に美しい写真にするから!」美月は頑なに拒否し続け、煙草の煙を吐きながら冷たく言い放つ。「不良の私を撮って、何の得があるの? そんな暇あったら、消えなよ」しかし、数日間の空の熱意に、少しずつ心が揺らぎ始めた。

ついに、美月が部室の隅でため息をつき、意外な条件を口にした。彼女の瞳には、いつもの強気さの中に、わずかな照れと挑戦の色が混じっていた。「……わかったよ。撮らせてやる。ただし、一つ条件。だったら……私のことを、抱きしめられるっスか?」空は耳を疑った。美月の言葉は、彼女なりの本気のテストだった。動物にしか見せない優しさを、人間に預ける覚悟の表れ。空の胸は高鳴り、コンテスト以上の何かが、静かに芽生え始めていた。