「俺が代理種付することになった人妻橘しずかさんはなんにも知らない!!その2」
========================
「次は男の子をお願いできますか?」
しずかさんからもらった手紙に綴られたその一文は、俺の心に深く刻まれ、毎日の孤独を優しく照らす唯一の光だった。あの手紙が届いてから、俺は仕事に追われながらも、決して忘れなかった。あの温かな言葉が、俺の胸に静かな希望を灯し続けていた。
そして今日、手紙が届いてから一年半の歳月が流れ、ついにその日がやってきた。しずかさんが、東京の俺の元へやって来る。目的はただ一つ――俺の子供を、再び妊娠するために。彼女の純粋な願いが、俺の人生に新たなページをめくるのだ。
あの……私の身体……
また斉藤さんの赤ちゃんを妊娠する準備ができたんです……
もしよければ、もう一度私のこと
孕ませてもらえませんか?
手紙の文字は、彼女の控えめな性格そのままに、優しく丁寧だった。読み返すたび、俺の心臓は高鳴る。しずかさんは、地方の小さな町で生まれ育ち、世間知らずのまま一度も都会に出たことがない橘しずか。穏やかな日常を愛し、家族の絆を何より大切にする女性だ。前作の出来事で、彼女は初めての妊娠を俺に託した。あの時、彼女の無垢な笑顔と、静かな決意が、俺の心を永遠に変えた。
前作のラストから一年半。娘は無事に生まれ、しずかさんの故郷で元気に育っているという。手紙には、娘の成長写真が同封されていた。小さな手で花を摘む姿に、俺は思わず涙ぐんだ。あの娘は、俺たちの絆の証。だが、しずかさんはそこで満足しなかった。「家族を大きくしたい。次は男の子を」と、彼女は手紙に記したのだ。田舎の風土では、男の子が生まれると家系が続くという古い言い伝えがある。しずかさんは、そんな伝統を素直に信じ、俺に託すことを選んだ。
ついに、東京での6日間が始まる。俺の住む狭いワンルームマンションは、普段は独り身の俺の簡素な巣窟だ。古いエアコンが時折軋む音、窓から見える雑多な街並み。だが、しずかさんが来る今、この部屋は特別な場所に変わる。彼女は新幹線で上京し、俺の最寄り駅で待っていた。久しぶりの再会。彼女の姿は、変わらず可憐だった。淡いピンクのワンピースに、肩にかけた小さなバッグ。田舎の空気を纏ったままの、柔らかな微笑み。
「斉藤さん、お久しぶりです……。来てよかったです」
彼女の声は、緊張で少し震えていた。俺は慌てて荷物を運び、部屋へ案内する。ワンルームの限られた空間で、2人は再び寄り添う。初日の夜、夕食は俺が作った簡単な家庭料理。しずかさんは目を輝かせ、「おいしい……斉藤さんの手料理、初めてです」と喜んだ。食卓を囲みながら、娘の話に花を咲かせる。彼女は娘の最近のエピソードを、次々と語ってくれた。「おててで歩くのが上手になって……。パパの写真を見て、手を振りますよ」。その言葉に、俺の胸は温かくなった。離れた場所にいるはずの娘が、俺を「パパ」と呼んでいるなんて。
2日目からは、本格的な「準備の日々」が始まる。しずかさんは、毎朝穏やかな散歩を提案した。東京の街を、俺の腕に寄り添って歩く。渋谷の喧騒に目を丸くし、「こんなに人が……!」と驚く彼女。俺は手を引いて、優しく説明する。昼は公園で弁当を広げ、夕方はスーパーで食材を選ぶ。日常のささやかな時間が、2人の絆を深めていく。夜になると、部屋の灯りを落とし、静かに語り合う。彼女の身体が、再び新しい命を迎える準備を整えていること。俺はその願いを、優しく受け止める。
3日目、しずかさんは日記を取り出した。「前回のことは、全部ここに書きました。斉藤さんとの日々が、宝物です」。ページには、娘の妊娠中の喜びや、俺への感謝が綴られていた。俺も、自分の想いを伝える。「しずかさん、君がいなかったら、俺の人生は味気ないものだった。男の子、絶対に授けよう」。その夜、2人は心を通わせ、未来の家族像を夢見た。男の子が生まれたら、どんな名前を付けようか。田舎の家で、みんなで暮らす日を想像する。
4日目、東京の名所巡り。浅草寺でお参りし、「健康な赤ちゃんを」と手を合わせるしずかさん。彼女の祈りは、純粋そのもの。5日目には、俺の職場近くのカフェでくつろぐ。しずかさんは都会の空気に少し疲れた様子だったが、「斉藤さんと一緒なら、楽しいです」と笑った。夜ごと、2人は互いの温もりを確かめ合う。言葉少なに、しかし深く結ばれる時間。
最終日、6日目の朝。しずかさんは荷物をまとめながら、囁いた。「ありがとう、斉藤さん。きっと、男の子が来てくれます」。駅で見送る俺の目には、涙がにじむ。彼女の後ろ姿が、新幹線に消えるまで、俺は手を振った。この6日間は、ただの「準備」以上のものだった。愛と信頼の、再構築の日々。
やがて、数週間後。手紙が届く。「おめでとう、男の子です」。しずかさんの家族は、ますます賑やかになる。俺のワンルームは、再び静かになるが、心は満ち足りている。次なる再会を、待ちわびて。
世間知らずで田舎から一度も出たことがない橘しずかが、再び妊娠するために東京で過ごす6日間。斉藤の暮らすワンルームで繰り広げられる2度目の代理種付生活。日常のささやかな喜び、互いの想いが交錯する温かな物語。
前作ラストから一年半後の物語です。
モノクロ作品117ページ

