『勝ったら何でもシてアゲる』





『勝ったら何でもシてアゲる』
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第一章:完璧な女王と、万年二位のライバル
都内の大手広告代理店で企画職として働く拓海(たくみ)には、どうしても超えられない高い壁が存在した。
それは、同期入社であり、社内で「絶対女王」と称されるカリスマプランナーの香織(かおり)だった。
香織は容姿端麗、頭脳明晰、そしてプレゼン勝率100%を誇るパーフェクトな女性だった。どんなに困難なプロジェクトも涼しい顔で成功させ、社内の誰もが彼女に一目置いていた。
一方の拓海も努力家で優秀ではあったが、大型案件のコンペではいつも香織の後塵を拝し、「万年二位」という悔しい甘んじ方を余儀なくされていた。
ある夜、社内の大型スポーツブランドのコンペ案を巡り、残業中のオフィスで二人は火花を散らしていた。
「拓海くん、今回の提案書も悪くはないけれど、攻めの姿勢が足りないわ。私には勝てないと思う」
余裕の笑みを浮かべる香織に対し、負けず嫌いの拓海はデスクを叩いて立ち上がった。
「見てろよ香織! 今度の社長プレゼンでは、絶対に俺が勝って君を鼻で笑ってやる!」
すると香織は、少し意外そうに目を丸くしたあと、悪戯っぽい小悪魔のような笑みを浮かべ、ゆっくりと拓海の至近距離まで歩み寄ってきた。香織の甘い香水の香りが拓海の鼻腔をくすぐる。
「ふふっ、威勢がいいわね。……いいわ、じゃあ賭けをしましょう」
「賭け……?」
香織は拓海の胸元にそっと指先を置き、上目遣いで耳元に囁いた。
「もし次のコンペであなたが私に勝てたら……『勝ったら何でもシてアゲる』わ。あなたのどんなお願いでも、文句を言わずに一つだけ叶えてあげる」
心臓が跳ね上がる拓海。
タイトルに刻まれたその甘い挑発の言葉は、完璧な女王から叩きつけられた挑戦状であり、二人のプライドと隠された情熱をかけた戦いの火ぶたが切られた瞬間だった。
第二章:挑発の裏のプライドと、重なる影
その日から、拓海の執念の猛追が始まった。
深夜までのリサーチ、徹夜でのデザイン案の練り直し、競合分析。拓海は香織を見返すため、そして何より「勝ったら何でもシてアゲる」という彼女の言葉の真相を確かめるため、持てる全ての情熱を仕事に注ぎ込んだ。
しかし、拓海は努力の過程で、香織の別の顔を目撃することになる。
ある雨の日の深夜、一人オフィスに残ってプレゼン資料を作り込む香織の姿があった。完璧に見える彼女だが、実は人一倍のプレッシャーに押し潰されそうになりながら、陰で努力を重ねていたのだ。疲労から細い肩を震わせる香織の横顔を見たとき、拓海の胸に「勝ちたい」という競争心とは異なる、甘く切ない感情が芽生え始めた。
「香織……無理しすぎるなよ。温かいコーヒー、置いておくから」
「……拓海くん? 別に無理なんて……」
強がる香織の手から書類がこぼれ落ちそうになり、拓海は咄嗟に彼女の手を差し伸べて包み込んだ。
その瞬間、完璧な女王だった香織の頬が、奇跡のように赤く染まった。
「勝勝言ってるけどさ……僕は君を負かしたいんじゃない。君に認めてもらいたいんだ」
拓海のまっすぐな瞳と、彼の手から伝わる包み込むような温もりに、香織は言葉を失い、静かに視線を落とした。
実は香織もまた、孤高の立場に孤独を感じており、唯一自分に真っ正面から立ち向かってきてくれる拓海に対して、特別な情熱と好意を抱いていたのだ。「何でもシてアゲる」という挑発は、彼に自分をもっと強く見てほしいという、香織なりの不器用なサインだった。
第三章:運命のプレゼンと、暴かれた本心
そして訪れた、社長プレゼン当日。
会議室には重苦しい緊張感が漂っていた。香織のプレゼンは完璧そのもので、役員たちは深く頷いていた。
しかし、後攻の拓海のプレゼンは、それを上回る熱量と緻密さを秘めていた。香織の完璧なロジックに対し、拓海は「使う人の情熱と心の震え」を泥臭く訴えかけたのだ。香織の背中を追い続け、彼女を一番近くで見つめてきた拓海だからこそ到達できた、魂の提案だった。
結果は――拓海の逆転勝利だった。
「今回の案件は……拓海くんの案を採用する!」
社長の宣言とともに、静まり返っていた会議室に拍手が巻き起こった。拓海はついに、長年の壁だった香織に勝利したのだ。
その夜、二人は誰もいない夜景の見えるオフィスビルの屋上展望デッキにいた。
風が吹き抜ける中、香織は手すりに寄りかかり、清々しい笑顔を浮かべていた。
「おめでとう、拓海くん。私の負けよ……完璧に脱帽だわ」
「香織……」
「約束は約束ね。『何でもシてアゲる』と言ったわ。……何でも言って。私にできることなら、あなたの命令に従うわ」
どこか寂しそうに微笑む香織。拓海が自分から離れていってしまうのではないかという不安を隠すように、彼女は自らを指名手配するように言葉を繋いだ。
拓海はゆっくりと歩み寄ると、香織の華奢な肩を掴み、そのまま力強く引き寄せて抱きしめた。
「あっ……拓海くん!?」
香織の驚きのアクションを無視し、拓海は彼女を逃がさないように抱擁を深めた。
「僕の『何でも』はこれだ。香織、強がるのをやめて、僕の恋人になってくれ。仕事のライバルとしてじゃなく、一人の男として……君を支えさせてほしい!」
第四章:女王の涙と、真実の約束
冷たい夜風の中、二人のお互いを求める熱い体温がダイレクトに交錯する。服越しに伝わるお互いの早鐘のような心臓の鼓動と、吐息の暖かさ。
抱きしめられた香織の目から、溢れ出る涙がポロポロとこぼれ落ちた。
「バカね……そんなの……命令になんてしなくても……っ」
香織は拓海の背中に回した手にキュッと力を込め、彼の胸元へと顔を深くうずめた。
「私ね……ずっと怖かったの。あなたに追い抜かれたら、もう私のことを見てくれなくなるんじゃないかって……。勝ち続けていないと、あなたの隣に居られないんじゃないかって……っ!」
「そんなわけないだろ! 僕は君の勝ち負けなんかじゃなく、香織という人間そのものが好きなんだ!」
強がりだった女王の仮面が完全に剥がれ落ち、ただの愛おしい一人の女性となった香織。拓海は彼女の涙を優しく指で拭うと、二人はお互いの存在を確かめ合うように深く深く抱き合い続けた。
「勝ったら何でもシてアゲる」という挑発から始まったライバル関係。
しかし、勝負の果てに手に入れたのは、勝利の栄光以上に価値のある、お互いの素顔を愛し合える本物の愛だった。
翌朝、眩しい太陽の光が差し込むオフィスで、二人は並んでデスクに向かっていた。
「拓海くん、次のプロジェクトだけど……今度は絶対に負けないからね」
「望むところだ。何度だって相手になってやるよ」
少し照れくさそうに笑い合いながら、二人はデスクの下でそっと手を繋ぎ合わせた。競い合い、高め合い、そして深く愛し合う二人の新しい物語は、どんな勝負よりも甘く確かな温もりとともに、どこまでも続いていくのだった。
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『勝ったら何でもシてアゲる』
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